金、セックス、スポーツ賭博...米球界から永久追放されたギャンブラーの自堕落な生活

2021年、ローズをテーマにした本の執筆にとりかかった際、オブライエン氏はギャンブルを念頭に置いていた。「プロジェクトに着手した時でさえ、ピートが永久追放された1989年とまったく違っていた」と同氏。「でもまさか、球界のビッグネームを巻き込んだ別の賭博騒動のタイミングで本が出版されることになるとは思ってもいなかった――誰も予想できなかっただろう。だが野球やバスケの賭博騒動が起きていること自体は意外でも何でもない。1989年にピート・ローズを捜査した関係者全員に話を聞いたが、みな次もスキャンダルがあるだろうと予測していた」。

かつてはスポーツ賭博はとっつきにくく、好ましくないとされていたが、州がスポーツ賭博を合法化するのを禁じた連邦法が最高裁判所で覆されてからこの5年、メジャーはまさしくギャンプルアプリであふれ返っている。「昨年は1200億ドルもの金が合法的にスポーツ賭博でやりとりされた」とオブライエン氏。「史上最高額だ。今年も記録更新が確実視されている。今年のスーパーボールでは賭けた人数、金額ともに過去最多で、途方もない数字だった。一体この先どうなるのか、誰も分からない」。

同氏も言うように、プロスポーツ史上もっとも悪名高いギャンブラーを回想するのにこれ以上ベストなタイミングがあるだろうか?

「今までピートの物語は、ほとんどと言っていいほど野球の観点から語られてきた」とオブライエン氏。確かにその通りだ。ピート・ローズの人生は想像を絶するほどに野球一色だ。選手として24シーズンもプレイし、通算成績は4256安打(ちなみにMLB最多記録)。5つのポジションをこなし、オールスター出場歴17回、ワールドシリーズ優勝歴3回。20年にわたり、メジャーといえばこの人ありという存在だった。オブライエン氏はこうした点に目を向ける代わりに、「1人の男という観点からとらえたかった」そうだ。一応言っておくと、そうした視点が映し出すのはバラ色の人生ではない。むしろ人間の精神のもっとも深い闇をそのまま映したような、この世のものとは思えない色合いの怪しい光を放っている。

ローズはすべてを欲した。金、セックス(未成年のファンとも関係を持った)、栄光、野球での実績(とくに通算成績にこだわった)、勝敗、高級車、名声。ピートは巨大な牛がゴミ箱を延々とあさるように、周りが心配になるほどの勢いでむさぼった。だが一番クレイジーで巨大な蟻地獄はスポーツ賭博だった。ローズはあきれるほどの大金を何度も何度も賭け、高配当の違法ギャンブルで膨大な借金を作った。彼は中毒だった。それも最高レベルの中毒で、リスクそのものに依存していた。元を取れるかどうかも分からない大穴に、正気とは思えない金と時間を費やす感覚に取りつかれていた。手の施しようもなく、自分は無敵だと完全に思い込み、無限に借金を増やしていくばかりだった。

ひょっとしたら、70年代にMLBかレッズが介入していたら、ローズの自爆を防げたかもしれないとオブライエン氏は推測している。ローズがギャンブル、それもスポーツ賭博にのめりこんでいたのは周知の事実だった。FBIが関与するまでの10年間、ギャンブル癖のためにローズが狡猾なダフ屋のカモにされ、かつ野球の評判を傷つけていたことはMLBも承知だった。結局FBIに目を付けられ、球界から永久追放され、殿堂入りも剥奪され、砂漠の真ん中で金メッキの独房に入れられたまま、巨石を無限に持ち上げるシーシュポスのごとく、墓場からお呼びがかかるまで野球ボールにサインし続けなければならなくなった。当然といえば当然の報いだ。

Akiko Kato

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