マライア・キャリーがどん底から復活、新たなマスターピース『コーション』に迫る

王道R&Bへと回帰しつつある現行シーンともリンク

アルバム『コーション』全体に流れるのは、チルでメロウなR&Bのヴァイブ。フロア向けのアッパー系やヒップホップなニュアンスは後退し、代わりにスウィートでセンシュアルなムードが圧倒的だ。そんな方向性に同調するかのように、彼女の歌もアンニュイなウィスパー・ヴォイスが多用され、時たま前面に押し出される太い地声にハッとさせられる。彼女の十八番ともいえる躍動感溢れるアクロバティックな歌唱は、うっすら背景を彩るために使われているのみ。冒頭で彼女の歌力を力説しておきながら何だが、いわゆるパワフルなヴォーカルで圧倒する作品ではないのだ。お酒でも飲みながら、ゆっくり家で聴きたい大人のアルバムとでも言えるだろうか。

新しいサウンドを取り入れつつも、アルバム全体にはミレニアム前後のR&Bを彷彿とさせるノスタルジックなムードが溢れているのも特長だ。97年のリル・キムのヒット「クラッシュ・オン・ユー feat. リル・シーズ&ノトーリアスB.I.G」をサンプリングした「ア・ノー・ノー」や、レジェンド・ラッパーのスリック・リックのゲスト参加も、そんなムードを盛り上げる。



というのは、マライアを聴いて育ったアリアナ・グランデやエラ・メイ(彼女の「ブード・アップ」を手がけたDJマスタードは「ウィズ・ユー」のプロデュースにも参加)のような若手シンガーたちが王道R&Bへと回帰しつつある現行シーンの状況とも見事にリンク。エッジィなオルタナR&Bに疲れてしまった(?)リスナーたちが、歌心溢れるR&Bに戻ってくるのは当然の成り行きかもしれない。今なおTLCが愛される日本では、デンジャラスなヒップホップ/R&Bより、むしろ一般的にはこちらの方が歓迎されるのではないだろうか。

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