FIVE NEW OLDの多様性とアイデンティティを構成するもの

成熟した姿を収めることができた理由

―サウンド的な意味でのバンド感っていうのはこれまでのほうがあったかもしれないけど、今作を聴いて、「遂に“FIVE NEW OLDになったな”」っていう感じがしたんですよね。もちろん、今後も変化するし、進化もしていくんだろうけど、「ここがFIVE NEW OLDのスタート地点なんだ」っていう感覚があります。

そうですね。メンバーにいろいろ任せることができたのも、「自分たちを見つめ直して作るアルバムにしよう」「自分たちを再認識するために作ろう」という話を最初にしたからだし、実際にそう思えるサウンドにすることができたんです。そこは今までと圧倒的に違う部分ですね。だから今回は打ち込みの曲もあるけど、メンタリティとしてのバンド感がものすごく大きくなりました。そこは随分成熟したと思います。

―そして、楽曲ごとのクオリティの向上が半端ないです。ご自身ではどう感じていますか。これまでよりも楽曲が練られている自覚ってありますか。

考え方はすごくシンプルだったし、凝ったことをしようっていう気持ちはあまりなくて。あったのは、よくメンバーにも言ってたんですけど、「この曲に対してまだ乳化(Emulsification)できることはあるかな」っていう感覚だったんですよね。奇をてらうんじゃなくて、もっと何かを共存させられないか、みたいな。

―なるほど。

あと、ライブとかを通じて音楽的な経験値も随分積ませてもらってきたので、必要なものとそうじゃないものの見分けがある程度つくようになって。例えば、今回は歌をそんなに重ねていなかったり。「これでいい」って思えるようになったというか、前回に比べて僕の声が持っている情報量が全然違うので、そこも大きな変化なのかな。だから、やってることはシンプルだけど、曲のクオリティが上がってるんだと思います。

―曲ごとのフックがすごく明確になっていますよね。これまでは、サウンドはかっこいいけど、楽曲としてもっと引っかかる部分がほしいなっていう気持ちが正直あったんです。でも、今回はそうじゃない。

いろいろ曲を作っていくなかで、聴く人のことが思い浮かぶ瞬間が増えたんです。ずっとONE MORE DRIPな音楽を、日常にひと時の彩りをっていう気持ちでやってきて、その言葉がこれまで以上に意味を持ってきたというか。


Photo by Kana Tarumi

―制作にはけっこう時間をかけているんですか?

いや、そんなに。今回はアジアツアーを回りながら曲を作っていたので、昔みたいに腰を据えて「さあ、やるぞ!」っていう感じではなかったですね。レコーディングも、アジアツアーが終わって1週間後ぐらいに始まって、終わるのもめちゃ早かったですね……早いっていうのは期間的なことだけではなくて、朝、スタジオに入って夕方には終わるっていうことがよくあったんですよ。エンジニアさんと「今日、終わるの早いね。飲み行こうか」みたいな(笑)。録りからはリラックスしてましたね。

―録りたいものが明確になってた?

よりよい音でレコーディングをしていくなかでの試行錯誤はもちろんあるんですけど、スタジオで1時間悩む、みたいなことはなかったので、そういう意味では早かったです。

―そういう話を聞くと、今作がタイトにまとまった内容になっているのはより納得がいきます。そうやって作ったものが、前作よりもいい売上を残せているのはうれしいですね。

そうですね。今回アルバムを手にした人が5年後も聴いていたくなるようなアルバムになればいいなと願っているので、トレンドに乗るというよりも、時が経っても廃れないアルバムであればいいなと思ってます。

―確かに、流行りのサウンドを引き合いに出して語ることもできる作品ではあるけど、今回そこは全く重要ではなくて、作品自体が純粋にいいっていう。トレンドに逃げてないというか、頭でっかちにならずにいい音楽を作ることを念頭に置いてできたのが今作なのかなと。

もちろん、今、人が求めているものに対して敏感でいるというのも音楽を職業にしている人間にとっては大事なことだとは思うんですけど、やっぱり、いいものは時代を超えると思うし、このアルバムを作ってようやく、自分たちもそういうものを作り上げることを目標にしているっていうことが見えてきましたね。前からそういう気持ちはあったんでしょうけど、それをちゃんと掴めたというか。

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