世界最大の音楽企業ユニバーサル、音楽ストリーミングの成長が鈍化 救世主はTikTokか?

とはいえ、これはさして大きな問題ではない。なぜなら、9カ月間のUMGの2019年の音楽ストリーミング収益は前年と比べて最終的には5億ドル近く成長しているであろうし、同社は2019会計年度に世界的な全収益の記録を打ち立てるべく前進しているからだ。

さらに、UMGはいまでも音楽のメインストリームにおいてもっとも影響力のある企業であり、10月初めにビベンディは、Spotifyの2019年前半のグローバルチャートにランクインしたトップ10のうち8曲がUMGと契約しているアーティストの楽曲であるだけでなく、トップ6をすべてUMGアーティストが占めたことを高らかに公表した(ランキングトップは、この夏最大のSpotifyのヒット曲、ショーン・メンデス&カミラ・カベロの「セニョリータ」)。

それでも、音楽ストリーミングによる収益が下がりはじめたという事実(2019年前半を見ると、これはUMGの最大のライバルであるソニー・ミュージックエンタテイメントにも言える)は、大手音楽企業がこれから数年は立ち向かわなければならない課題を浮き彫りにしている。とりわけ、米国、英国、欧州をはじめとする主要な市場が成熟するにつれてSpotify、Apple Music、TIDALなどの全世界の音楽ストリーミングの成長が鈍るなら、いったい何がストリーミング収益をふたたびアップさせられるのだろう?

10月17日の投資者向けアップデートで米モルガン・スタンレーは、UMGの成長の見込みについて楽観的な姿勢を保っていた。強気市場の場合、UMGは現在450億ドル(およそ4兆9000億円)という途方もない高値で評価されるというのだ。だが、モルガン・スタンレーは、2019年のストリーミングをとってもUMGが抱えるレーベルの収益が鈍化していることにも気づいている。同社は、UMGの音楽ストリーミングの成長率が2019年の第1四半期は前年比28%だったのに対し、第2四半期には23%、第3四半期にはわずか20%だったことも指摘した。

同社の情報によれば、2019年からUMGの「音楽ストリーミングの成長は、かなり低下する」ことが予測される。だが、音楽ストリーミングというフォーマットが既存の有料オンデマンド式サービスとともに中国やインドをはじめとする新興市場に「解放される」ことで今後の成長スピードを上げる可能性もあると示唆した。

さらに同社は、今後UMGの音楽ストリーミングの収益をアップさせるかもしれない別の可能性も指摘した。それこそが「TikTok、Calm、Facebook、Instagramにおける音楽ライセンスの新興ユーザー主体の成長」だ。

とりわけTikTokは特筆すべきアイデアだ。TikTokを所有するBytedanceは現在、将来の同サービスへの取り込みを念頭に大手レコード企業とライセンス交渉の最中にあると言われている。さらに、TikTok/BytedanceはSpotifyふうのオンデマンド式オーディオサービスを近日実施する(それも年内に、と言われている)。こうしたサービスによって、まだ成熟していない新興グローバル市場にようやく注目が集まる、というのが業界関係者の予測だ。

こうした流れは、UMGにとっても朗報だ。UMGはいま、楽曲カタログのグローバルライセンスの更新をめぐってSpotifyと進まない交渉を強いられている——そこには、有料音楽ストリーミング市場にはライバルがいればいるほど良いという迷信を大々的に受け入れたことも関係している。ストックホルムで誕生してから11年が経つSpotifyが初めて低迷の兆しを見せるなか、TikTokのようないわゆるライバル企業が音楽ストリーミングによる収益を劇的にアップさせられるなら、ライバルは多ければ多いほど良いという考えもあながち間違いではないのかもしれない。

Translated by Shoko Natori

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