金原ひとみが、小説を書き始めた頃から気になっている「非連続性」への不安とは?

金原ひとみ(Photo by Mitsuru Nishimura)



フランスからの帰国を決めた理由

『蛇にピアス』では、身体改造としてのピアスにハマっていく主人公たちの姿をリアルに描いていた金原だが、自身はどんな時にピアスを開けたくなるのだろうか。

「もともと内面的な世界に篭りがちな人間ですけど、仕事も小説なので、どうしても閉じた世界に入ってかざるを得なくて。しかも扱っているのは『言葉』つまり『記号』じゃないですか。結局のところ『机上の空論』でしかない。なので人と触れ合ったり、自分の身体を強く意識したりする瞬間を、ある意味では反動的に求めているのかもしれないです。具体的な“痛み”が欲しくなるというか、自分を串刺しにして地面に刺すみたいな……。世界がぼやけて見える時とか、自分に自信が持てない時など、ブレない軸が欲しい気持ちになると、タトゥーやピアスに惹かれていく傾向がありますね」

基本的に執筆は夜に行っているという金原。23時ごろからパソコンに向かい、メールの返信など事務的なことをこなしながら少しずつ「執筆モード」に持っていくそうだ。

「大抵は朝5時くらいまでやって、寝てお昼くらいに起きる日々です。書くときにはお酒を飲みますね(笑)。そんなに強くない、ビールや酎ハイなんかをちびちび飲みながら。若干アルコールは入っているけど、酩酊はしていないくらいの状態を維持して書くのがちょうどいいんです。ただ、筆が乗ってくると酒も進んじゃうんですよ。『よし、ワインにするか!』って(笑)。で、ワインが尽きた頃には頭も回らなくなって、そのまま寝る。そういう時は、割と達成感もあるんです。『よく書けたな』と思うのは、大抵は飲み過ぎたときなんですよね」

それにしても、日本での窮屈な暮らしから開放されてパリでの生活を満喫していたはずの金原が、2018年に帰国を決めたのは一体どうしてだったのだろうか。

「ある時から苦痛になってしまったんです。フランスに慣れてからは、一時帰国後にシャルルドゴール空港からタクシーに乗って家に戻ると『帰ってきた!』という安堵感があったのに、いつしか『ああ、帰ってきちゃった』みたいな気持ちになっていて。基本的に私は、どこかに帰属している感覚がないんですよね。10代の頃から家を出て、あちこち転々としてきたので『あ、ここだな』と思える場所や感覚を得ることができなかった。改めて振り返るとそんな気がします。日本は圧倒的に楽ではあるけど、かといって『ここ』というわけでもない。とりあえず今は、仕事がしやすいし、子供の学校のことなど考えて利便性で住んでいますが、きっとどこにいても『ここだな』という感覚は得られない気がします。どこかに根差して生きていくタイプではないのでしょうね」


Photo by Mitsuru Nishimura

とはいえ彼女には家族がある。家族こそ「ここ」ではないだろうか。家族は「ホーム」ではない? 不躾とは思いつつもそう尋ねてみた。

「うーん……そうなんですよね。以前、海外に住む日本人の方のコラムを読んだことがあって。『異国に住んでいると、一歩外に出れば何者かわからない“他者”ばかり。とにかく家族、ファミリーが自分を全肯定してくれる存在になる』といった趣旨のことが書かれていて。確かにフランスでも、特に移民系の家族の結びつきは強かった。離婚率も低いし、家族としてだけでなく『同志』としての絆も強いのかなと。でも、私の場合はそういう気持ちが全く湧かなかった。とにかく家族は自分がきちんと責任を持って回していかなければならない存在であり、それがあることで自分が救われたり、生きやすさを得られたりはしなかったんです。そのことは自分にある種の挫折というか、絶望に近い感覚を植えつけたと思います」

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