金原ひとみが、小説を書き始めた頃から気になっている「非連続性」への不安とは?

金原ひとみ(Photo by Mitsuru Nishimura)



「なぜ自分は生きづらいのか」を掘り下げていった結果、見えてきたもの

金原にとって家族はある意味、会社やプロジェクト・チームのようなものなのかもしれない。そう思ってさらに問うと、「会社に勤めたことがないから分からないですけど」と笑いながら、こう続けた。

「でも確かに、『子供を育て上げる』という目的を持ったプロジェクトに参加している感じなのかな。だから、あまり『情』や『依存』みたいなものもなくて。子供たちにも『自立』を促す教育をしていると思います」

今年、長女は金原が小説を書き始めたときと同じ年齢になる。作品ごとに様々なテーマを取り上げながら、表現の幅を広げてきた彼女には、「書き始めた頃からずっと変わらない、どうしても気になってしまうことがある」そうだ。

「なぜ自分は生きづらいのか、なぜこの世界のルールを窮屈に感じてしまうのか。そこを追求し掘り下げていった結果、人の『非連続性』への不安が大きいのだと気づきました。つまり、昨日までの自分と、今日までの自分を私は連続的に捉えられないんです。例えば死刑囚に刑を執行しても、それは殺人を犯したときとは別人だから意味がないと思ってしまう。でも、それって世の中には受け入れられない考え方じゃないですか。自分の中にある、そういう掴めなさ、移ろいやすさを言葉にしたくて、それで小説を書いているのだと最近は思っていますね」

そんな彼女に今後の目標について尋ねると、「本当になくて(笑)。今書いている作品に、ただただ注力しているだけなんですよね」と返ってきた。そして、続けて教えてくれたのが冒頭で紹介した、編集者からの「ゴキブリ発言」だったのである。


Photo by Mitsuru Nishimura

「『とにかく、自分は人々から嫌われる最底辺の人間なのだから、誰かにおもねるようなことは全然考えなくていい。ゴキブリとして開き直って、どうやってでも生き延びてやるという気持ちで最底辺の人から見える世界を書いていけばいいんだ』って。かっこつけたことや、教訓めいたことを書くのではなく、『私は害悪なのだ』という意識を持って書けと。ひどいでしょう?(笑) でも、その言葉があったおかげで私も吹っ切れたというか。『いい話にしよう』『感動させよう』なんて思わないですんでいるのかもしれないですね」

全身にピアスを開けた、まるでロックミュージシャンのような金原。そんな彼女の中に宿る、ゴキブリのように不屈な魂が今後どんな世界を描き出してくれるのか、楽しみでならない。

(撮影・インタビューは2020年2月に行われたものです)
撮影協力:RUBY ROOM

金原ひとみ
1983年、東京生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞、2004年に同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版された。2010年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。2012年、パリへ移住。同年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2018年、帰国。2019年『アタラクシア』出版。


『パリの砂漠、東京の蜃気楼』
金原ひとみ
4月23日発売
電子書籍版同時発売

体裁:四六判変形上製本 216頁
定価:本体1700円+税
発行:ホーム社/発売:集英社
ISBN 978-4-8342-5337-5
装幀:川名潤
写真:野村佐紀子

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