トム・ミッシュの新境地に学ぶ、「共作」の醍醐味と広がる可能性

左からトム・ミッシュ、ユセフ・デイズ(Courtesy of Caroline International)


トム・ミッシュが「コラボ」を選んだ理由

ーそんな『Geography』を経て、ユセフ・デイズとコラボした『What Kinda Music』がリリースされたわけですが、まずはサウンドの変化に驚かされました。

柳樂:多幸感に満ちていた『Geography』に比べて、『What Kinda Music』はだいぶメランコリックだし、ダークで実験的。これまでとは違うやり方で、新たなトム・ミッシュ像を生み出したと言ってもいいんじゃないかな。

今回、『What Kinda Music』のためにトム・ミッシュユセフ・デイズにそれぞれインタビューしたんだけど、トム本人によると「コンセプトがあったわけでも、特定のテーマがあったわけでもない。完成した作品を改めて聞き返してみると、かなり繊細でドリーミーだよね。でも、それは最初から意図していたわけではなく、やってみたらそういうものが生まれただけで。いわば大きな実験のようなものさ」ということらしい。




ー先に『What Kinda Music』に至るまでの背景を整理しておくと、トムは以前から、ロイル・カーナーなど地元ロンドンの仲間だったり、資質的にも近いフランスのFKJなどとコラボしてましたけど、『Geography』が大ヒットしたあとも精力的に動いてますよね。星野源さんとの共作もそうだし、UK本格派ソウル・シンガーのマイケル・​キワヌーカと組んで曲を発表したり、コモンのリミックスを手掛けたり、ジョン・レジェンドともセッションしたり。

柳樂:NPRの「タイニー・デスク・コンサート」に出演したときは、ブラグストン・クックというアメリカの若手ジャズ・サックス奏者と共演してたしね。彼みたいな最先端の若いアーティストからベテランまで幅広く交流している。



ー『Geography』は10代からキャリアを積んできたトムにとって、いわば集大成的な内容でしたよね。そこから次の一歩を踏み出すにあたって、他者との共同作業を求めるようになった。そういうモードの変化が、今回の『What Kinda Music』とも繋がってるんですかね。

柳樂:それもあるだろうし、たくさんライブをこなした経験も大きかったみたい。トムも「以前はツアーがどういうものかわかっていなかった」と話しているように、『Geography』を発表したあと2年かけて世界中を回ったのが、彼にとっては初めてのツアーだったから。

ーきっと得るものが多かったんでしょうね。

柳樂:「次に何を作るべきか示してくれたと思う。『Geography』の曲を繰り返し演奏して、オーディエンスの反応を見たことは、次に自分が何をすべきかの指針になった」と本人も言ってた。今まではメールで(録音した)音源を送り合ったり、たまにセッションしたりはあったと思うけど、基本的にずっとベッドルームで作業してる人だったわけで。だけど、一人で作った『Geography』が売れたことで、演奏に明け暮れる日々が始まり、そこでの経験を踏まえて新しい自分探しの旅が始まったと。


Photo by Bardha Krasniqi

ーそこで「共演作を出そう」となったときに、大御所に胸を借りたり、まったく違う畑の人とタッグを組むケースもあるじゃないですか。でも、トムが選んだのは近所に住むユセフ・デイズだったと。こういうローカル重視の繋がり方は、ロンドンの新世代ミュージシャンによく見られますよね。

柳樂:二人の出会いは『Geography』のリリースパーティだったそうだけど、トムは「9歳の頃、ユセフ・デイズが学校の催しでドラムを叩くのを見た」と言ってるね。かたやユセフのほうは「共通のミュージシャン仲間を通じて知り合った」と話している。

それで2018年にセッションするようになって、最初は「試しに一曲やってみよう」くらいのノリだったのが、「ビート・テープのEPにしよう」になって、「歌ものも入れてコラボ・アルバムにしよう」ってなって、と話が膨らんでいったみたい。二人とも「一度のセッションで10曲分のアイディアが生まれた」みたいに話してるし、よっぽど手応えがあったんだろうね。

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