なみちえ、ハローキティからヒップホップの必然へ

「手近にあるものをまず考え直したいっていうのが今世の人生におけるコンセプト」

この日は茅ヶ崎にあるインドカレー店「DURGA DINNING」でカレーとチーズナンを頬張りながらのインタビューとなった。ふっくらしたナンからチーズが溢れ、ひと口かじるとスパイスの甘さが広がる。うまい。

兄妹三人で結成されたヒップホップ・ユニットと同名の代表曲「TAMURAKING」で印象的なのは、連呼されるタイトルだ。MVの冒頭でもタイトルの「TAM」「A」「KIN」にアンダーラインが引かれている。



「兄妹3人の共通言語としてユーモアとか下品な話とかがあって、ユニットも兄妹との遊びの延長ですね。家族LINEで“お客さんが来るからあったかいもの用意して”って送ったら、兄から“今俺うんこしたんだけどこれでいい?”って返ってくるんです(笑)。普段からこういうことを言っているうちに品のなさの質が上がってきて、結果『TAMURA KING』というアウトプットになった、みたいな。私は品のないこととシリアスなことが並んだときの落差で笑っちゃうのかもしれない。

いつも頭に浮かんだ言葉から曲を作っていて、歌詞は私、TAMURAKINGのビートは兄の担当です。音楽性に関してはいつも自分に根元があって、人の影響を受けることはありません。こういうコンセプトのラップがないなと思ったからラッパーになったし、手近にあるものをまず考え直したいっていうのが今世の人生におけるコンセプトで。家族と話したり、兄も妹もクリエイターだから一緒にふざけたりしていれば何か出来上がる。

『おまえをにがす』は兄が新しいカメラを買ったからMV撮ろうよってビートを作って、私が歌詞を書いて、フィーチャリングする相手がいないから亀を持ったんです。あの亀には曲がバズった後に“ニガス”って名前をつけました。

いいなと思っている曲は、ショッピングモールにあるハローキティのポップコーン自販機で流れるポップコーンマシーンの歌『ハローキティ』と、近所を走るイケダの灯油の車が訪問販売のときに流してた『明るい街』。キティの曲はフルバージョンで聴くとサックスのソロがあるんですよ(笑)。特に灯油の曲は家の近くを通って、その瞬間だけ子供の合唱が流れるっていう風情も情緒もすごい。当時あれが来ないと冬が始まりませんでした。

だからリスナーが亀を見て『おまえをにがす』を思い出すとか、テレビを見ようとした時に『Y〇Uは何しに日本へ?』を思い出してくれるようになったら、私もハローキティ勝ちできるんじゃないかなって」

私がテレビ番組の街頭インタビューをしていた頃、見た目で判断した相手からイメージ通りのコメントをもらうことは求められる仕事のひとつだった。街頭インタビューのインタビュアーは台本と自分の言葉の境界を曖昧にさせて喋っているうちに、自分の思いそのものもどこか曖昧になる。曖昧な話し手は、作り手にも受け手にも代替可能な存在だ。

しかしそれを自分の言葉で批判できる田村なみちえには替えがきかない。

春が来る。私が私に対して蓋をしていた疑問がゆっくり起き上がっていくのを感じた。



『毎日来日』
なみちえ
Namichie
配信中




Photo by Renge Ishiyama

なみちえ
1997年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ・在住の22歳。着ぐるみなどの立体造形を中心にラップ・詩・歌・身体パフォーマンスを用いる。その表現は単純に二分化されている知覚にグラデーションを起こすための装置である。ソロ、バンド(グローバルシャイ)、ユニット(TAMURA KING)の3形態で音楽活動を行う。


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