ニューアコが示した新しい価値観と「自由」の味わい方

会場で徹底していた感染症対策

その上で、会場のほうでは具体的な感染症対策が徹底的に行われていた。これまでは「YONDER」「HERE」「VIA」「NIMBUS」の4ステージだったところを、「HERE」と「VIA」」の2ステージのみでライブを行い、アクト数を通常の4分の1以下に設定。移動距離が最短の2ステージのみにすることで、観客の移動時の混雑を避け、ライブアクト間の時間をゆったりと使えるようにする。それによって密の状態を作らないよう各々が留意する余裕を作り出す。さらにはステージ間の通路には常時2人のスタッフが立ち、通過する観客一人ひとりにアルコール消毒と検温を行う。当然これまでも運営スタッフが裏で動き回っているイベントだったわけだが、あくまで会場内の「警備スタッフ」はTOSHI-LOWひとりだけで(開催初日の夜にTOSHI-LOWみずから警備服に着替え、バット片手に深夜パトロールをする姿は名物になってきた)、観客の場所は可能な限り観客自身の自警に委ねる環境作りも従来のニューアコのユニークネスになっていた。

【画像】ソーシャルディスタンスを保つための環境下で実施された今年のニューアコ(写真12点)

しかし今回に限っては、密集した環境を避けるための最低限の制限を敷くことで、ニューアコの本質的な穏やかさと自由を守ろうという意識がそこかしこに見受けられたのである。観客の密集が生まれやすいステージ前のエリアには、地面に埋め込まれたピンクのテープで立ち位置が示され、その位置から動かないようにという内容が繰り返しアナウンスされ、歌を歌ったり大声を出したりしないよう、注意喚起の看板がライブエリアに貼り出されていた。

ただ、そういった制限が数多く張り巡らされたとしても、最終的には観客同士の思いやりの意識によって成立していくのがこのイベントの素晴らしさで、たとえば飲食エリアではMAKOTOとRONZIがコラボレーションで製作したラーメン、KOHKI監修のたこ焼きには長蛇の列ができていたが、そこでも観客が自主的に間隔を広くとって場所を譲り合う光景が見られた。これは「コロナだから」「今だから」という意識と同時に、ニューアコが11年間の歴史の中で積み上げてきた自助の精神性が作り上げた景色でもある。人との距離感、人との触れ合いの在り方が改めて問われる今において、人と自分が最も穏やかでいられる方法とは何か?と想像力を働かせ、自分以外の他者の声をどう受け止めて生きていくのかは最も重要な社会的テーマだ。今年こそ上述した新しい試みが多くなされながらも、その社会的なテーマに対する姿勢を表し続けてきたのがニューアコなのだと、変わらぬ本質も同時に浮かび上がってくるのだった。

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