河村隆一がソロ作を通して語る、故YOUやGEORGEらとの交流

最前列を超えた「最前」とは?

-ちなみに、久々にお客さんの前で歌って、緊張とかそういうのはなかったんですか?

緊張はなかったです。ただ、どこまで見てくださっている方の心を熱くしてあげられるのかなって。音楽とかエンターテインメントって全力疾走である必要はないと思っているんですけど、人間が頑張っている姿とか、何かを乗り越えた瞬間とかを見ると熱くなるものじゃないですか。ロックのライブでMCで煽るのも、背中を叩いているような、「お前もっと頑張れよ、俺ももっと頑張るからさ」みたいな、そういう意味合いを含んでいるような気がするんですよ。でも、今は声援もできないし、最前列もすごく遠い。その中で満足感を持って帰ってもらえるのかどうか、緊張よりもそこがすごく心配でした。

-お客さんをフルキャパで入れることはしばらく難しいでしょうし、今後のライブはリアルと配信とのハイブリッドでやっていくことになるんじゃないかと思うんです。隆一さんも配信で歌ったりされていますが、メリットやデメリットについてはどう考えていらっしゃいますか?

まず、ライブと配信だと視点や距離が違いますよね。生のライブでは、大きいホールだと最前列であっても3m〜5m、会場によっては10mくらいボーカリストとお客さんの間に距離があるじゃないですか。それが、配信だと目のアップとか横顔とかも全然あるので、見え方が全然違うなと。だから、出来れば生のライブと配信で二度楽しんでもらいたいという気持ちはあります。生の会場で遠くから見れば照明や舞台セットが全部見えて、配信ではその時にどんな表情で歌っていたのかはっきり分かる。そこで“この時こういうふうに歌っていたんだ“って初めて気付くこともあると思うんです。そういう意味では、楽しめることが増えたんじゃないかと。つまり、最前を超えた最前ですね(笑)。

―伝える側も見る側も生に越したことはないんでしょうけど、そういう時代になってしまった。音楽の媒体がレコードからCD、CDから配信になったように、ライブも配信という新しい形態に移っていく時期が来たのかもしれませんね。

その先にある世界には、もしかしたらもっと多角的にライブを楽しめる、購買層を広げられる展開があるかもしれないですよ。今までは年間60本〜80本ものライブをやっていたので、配信まで手が回らなかったし、きっとこういう状況にならなかったら出来ていなかったと思うんです。でも、実際にやってみて、すごく新鮮さを感じています。“カメラ越しでも感動した”とか“何度見ても泣けます”とか言ってもらえると、実感としてはカメラを見つめて歌っているんだけど、その先に見てくださっているオーディエンスがいると思って歌えるようになってきて、だんだん気持ちも深く入るようになってきました。



-確かに、そういうポジティブな捉え方もできますね。今までは小さいお子さんがいたりしてライブ会場になかなか来られなかった方も、配信であれば安心して見られますし。

病気でなかなか家を出られない方にも、配信だったらLUNA SEAも河村隆一も見ていただける。今どこまで技術が進んでいるのか分からないけど、そのうちファンの方がVR的なものでステージに上がれるようになるんじゃないかな。15cmくらいの距離で 「Jってこういうふうにダウンピッキング弾いてるんだ」とか(笑)。さらに、昔の映像でもそれが出来るようになったら、マイケル・ジャクソンの横で踊れる日が来るかもしれないですよ。ライブだけじゃなくて、たとえばF1ドライバーとバーチャルでコースを走ったり、映画の中に入ってヒュー・グラントと一緒に街を歩いたり。そういうリアルな体験が出来る時代になったら面白いですよね。

―小さな会場でギュッと詰まって見るというのもひとつの感動でしたけど、そうじゃない新しい感動が始まりつつありますね。

今言ったような夢物語が現実になっていけばいくほど、リアルなもの、実際に触れられるものの価値も高まっていくと思うんです。そうなれば、生のライブやフェスも今まで以上に盛り上がるんじゃないかと密かに期待しています。

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