ジョン・ブライオン『Meaningless』20周年 名プロデューサーの「隠れた名作」を振り返る

お蔵入りの危機、「ソロ新作」の可能性

同じくブライオンと頻繁にコラボレーションしているグラント=リー・フィリップスは、アルバムの中で最もアップビートな「Walking Through Walls」を共作した。彼曰く、実はそれほど自信家でもない二人の性格を偽り、自信満々に表現した曲だという。本作は、バーバンク(カリフォルニア州)にあるフィリップスの自宅のリビングルームで作られた。リビングルームの壁は赤色で、床にはヒョウ皮が敷かれ、ベルベットのカーテンがかかっている。そして、フィリップスの趣味であるマジックの本やポスターの多くのコレクションも飾られていた。「マジックに関するポスターはたくさんあるが、中でもフーディーニの大型ポスターは特別だ」とフィリップスは言う。ポスターには、「フーディーニは世界の手錠抜けキング。地球上の何をもってしてもフーディーニを檻に閉じ込めておくことはできない」と書かれている。「“この地球上に俺を止められるものは何もない”と言う歌詞は、フーディーニのポスターにヒントを得たんだ」とフィリップスは振り返った。

アルバムのその他の曲は一風変わった華やかさを表現している。「Ruin My Day」と「Hook, Line, and Sinker」は破局や苦悩を歌い、「Meaningless」は思い出と郷愁をテーマにしている。アルバムのラストは、チープ・トリックの「Voices」(アルバム『Dream Police』収録)を見事にカバーしている。ところがラヴァ・レコード側はシングル曲の候補がないと判断して、アルバムのリリースを中止し、権利をブライオンへ返却した。「条件さえ整えばヒットする可能性はあったと思う」とブライオンは今になって思う。「当時の状況を考えれば、トップ10入りなんてあり得ないと思っていた。だけど全く不満には感じていなかった」



結局ブライオンは2001年1月に、彼自身のレーベルであるStraight to Cut-Outからソロアルバムをリリースした。映画『ハッカビーズ』(2004年)向けの「Knock Yourself Out」をはじめとする何曲かの映画音楽を除き、次のソロアルバムにまとめるだけのソロ作品を、彼はリリースしていない。『Meaningless』に続く正式なソロアルバムの可能性について、ブライオン自身は口が重い。「これまでに1度か2度、危うく出しそうになった」と彼は言う。

本人よりも、かつてのコラボレーターたちの方が積極的だ。「未完成の曲やミックスするだけの状態の曲など、おそらくどこかに大量の録音テープが眠っているに違いない」とマンは言う。「確かラーゴの自宅で何曲か聴かせてくれて、その時に彼が、“ああ、録音してもらえばよかった”なんて言っていたから」

フィリップスも同様のコメントをしている。「僕は彼の相当なファンだ。彼はものづくりにかけては天才だ。ミュージシャンとして、彼はユニークな存在さ。レパートリーの多いミュージシャンはいくらでもいるが、ジョンの音楽はどこか別次元のものなんだ」とフィリップスは言う。「彼のソロアルバムは素晴らしい作品になるはずさ。この世にもっとジョン・ブライオンのアルバムがあって欲しいだろう?」

ブライオン自身は、最終的にリマスターしてアルバムをリリースすることを嫌がっている訳ではないという。おそらく新旧のファンに対して、よりアピールするものになるだろう。「誰かがアルバムの音をいじったバージョンを持ってきて、聴いたことがある」と彼は言う。「できれば自分が聴いて満足のいくものを作って欲しいと思う。何か本当に良いものを作りたいと思っているのであれば、それはそれで良いと思う。時間の経過とともに価値が下がる訳ではないだろう。人による表現の一部に過ぎないからね」

From Rolling Stone US.

Translated by Smokva Tokyo

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