UK最注目ラッパー、スロウタイが語る悪役の素顔「音楽は本当の自分を知ってもらう手段」

世界中を旅することで手にしたもの

―先ほどコラボレーターたちは家族みたいなものだと話していましたが、それは従来のバンドのあり方と似ているように思います。そういう選択肢も考えているのでしょうか?

スロウタイ:今回のアルバムを作る時も、「触りもしないデカいコンソールが置いてあるような、でっかくて豪華なスタジオを使おうぜ!」なんて考えたりはしなかった。制作の大半は俺ん家か、コラボレーターが持ってるスタジオでやった。昔の俺は、音楽ってすごく親密なものだと思ってたんだ。ツレと集まって、好きな曲をかけるのがとにかく楽しくてさ。曲を作り始めたのだって、仲間を楽しませたかったからなんだよ。何にもわかっちゃいなかったし、ほんの遊びにすぎなかったけど、仲間が背中を押してくれるたびに、もっとうまくなりたいって思った。俺はそういうバイブスを失くしたくないんだよ。

―「Feel Away」はマライア・キャリーの「ドリームラヴァー」をサンプリングしていますが、あれは誰のアイディアだったんでしょう?

スロウタイ:みんなあれをサンプルだと思ってるみたいだけど、実はあれってジェイムス(・ブレイク)が歌ってるんだよ。俺がマライア・キャリーへのオマージュとして書いたリリックにインスパイアされたらしくて、彼は「君がそうくるなら、僕は歌うことにするよ」って言ったんだ。



―「Push」でのデブ・ネヴァーのパフォーマンスは素晴らしいですよね。あの曲はどのように生まれたのでしょう?

スロウタイ:デブのことはLAでブロックハンプトンのベアフェイスから紹介してもらったんだけど、すごくウマが合うんだ。まるで双子の兄妹みたいな感じさ。言うなれば、腹違いの妹ってところかな(笑)。俺がアルコールに依存気味で「このままじゃダメだ」って感じてた時、彼女は俺のそばにいてくれた。何が俺にとって大切かを、まるで自分のことのように考えてくれてたんだ。この曲を書いた時、ゲストはベアフェイスかデブのどっちかだと思った。でもって蓋を開けてみると、デブのトーンがまさにぴったりだったんだ。色んな人との出会いを経験したけど、デブとの絆は死ぬまで続くだろうね。

―過去数年間の世界中を飛び回る日々の中で、様々な人々との出会いに恵まれたんですね。

スロウタイ:俺は昔から変わり者で、特定のグループに長くいたためしがなかった。うまく溶け込むことができなくて、いつも疎外感を覚えてた。でもいろんな場所を訪れて、俺と同じくらい変わったやつらとたくさん出会ったんだ。それでようやく、俺は1人じゃないって思えるようになったんだよ。出会ってわずか5分の相手が、まるでガキの頃からの幼馴染のように思えた。あちこちを旅することの一番の意義は、世界は広いってことを肌で感じられるようになることさ。そういう経験ができなかったら、俺はいつまでも気分屋で孤独な、友達のいないクソったれミュージシャンのままだっただろうね(笑)

―世界中を旅した後でノーザンプトンに戻り、このアルバムを作るという経験はいかがでしたか? 生まれ育った町での暮らしから、何か見えてきたものがありましたか?

スロウタイ:そうだね、誰しも帰る場所は必要だからね。家族と一緒にいる時は、ありのままの自分でいられる。母さんは俺にとって親友の1人でもあるから、ここに帰ってくるたびに心底リラックスできるんだ。当時から何ひとつ変わらない、すべてが始まった場所に戻れるっていうのはいいもんだよ。世界中を飛び回るような生活は刺激的だけど、知らないうちに自分が他人の色に染まってしまうこともある。俺はそんな風にはなりたくないんだよ。ポップをやるようになって、「俺はヒルズ族だ、人生の勝ち組だ! 今日も太陽が輝いてる! 人生って最高!」みたいなさ。そんなの嘘っぱちだからね(笑)。あちこちを飛び回ってるときは、まるで他人の人生を歩んでるようで、全部受け止めきれずにいるのを感じることもあるんだ。写真でしか見たことのないような大勢のオーディエンスを目の前にしても、それが現実だとは思えなかったりね。でもこの小さな町に帰ってくると、自分が何者なのかを再認識できる。俺はそういう感覚を大切にしたいし、それが曲作りにも活きてくると思う。ここが俺のスタート地点であり、帰るべき場所なんだってことを、いつだって忘れずにいたいんだよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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