はぐれもので変人、それが俺なんだ―「Vex」には「俺に子供時代はなかった / 俺はいつだって大人の男だった」というラインがあります。あなたは今なお成長を続けていますが、子供の頃からそういったプレッシャーを感じていたのでしょうか?スロウタイ:どんな世代でもそうだろうけど、決して甘やかされず、何ひとつお膳立てされていないような環境で育った子供は、少しでも早く大人にならなきゃいけないって感じてると思う。それが許される間は、子供はできる限り長く子供でいるべきなんだ。でも俺が育った環境じゃ、それは両手でしっかり掴んでないとすぐこぼれ落ちてしまうようなものだった。家族を支えたり、仲間たちの励みになることばかり考えてた俺は、きっと生き急いでたと思う。フィギュアやレゴで遊ぶことになんてまるで興味がなかったし、いつも年上のやつらとつるんで金を稼ぎたいって思ってた。でも年をとるにつれて、ポケモンのカードやゲームボーイで遊ぶような日々をもっと楽しむべきだったって思うようになった。子供であることの特権を、ほんの少しでも長く享受するべきだったんだ。
―「成功を収め、また隔離生活のおかげで時間にも余裕が生まれている現在、そういったことを楽しもうと考えたりしますか?スロウタイ:まさに今やってるところさ! こないだ誕生日だったから、自分へのプレゼントとしてポケモンのカードを買ったよ(笑)。子供たちがYouTubeに上げてる動画を見て、「いいな、俺もやりたいな」なんて思ってたからね。4万ドルくらいはたいて箱ごと買うような真似はしないけど、小さいやつをいくつか買ってきて、それを開ける時のノスタルジックな感じを楽しんでる。ゲームをやったりジョークを飛ばしたり、いかにもガキっぽい悪ふざけをやったり、今はそういうのを堪能してるんだ。明け方までビデオゲームをやったり、甘ったるいお菓子を食べたり、ただ走り回ったり、サッカーやったりね。
―「Play With Fire」は痛々しいほどに率直な自身との対話で幕を閉じます。あの曲の制作過程とレコーディングはどういったものでしたか?スロウタイ:あの曲の最後の部分は、全部俺が実際にツイートした内容なんだ。随分前からなんだけど、俺はアイディアをノートとかに書き出すんじゃなくて、ネット上に書き込むようにしてるんだ(笑)もちろん自分の中だけに留めておくこともあるけど、ムシャクシャしてる時にパッと浮かんだことなんかは、深く考えずにツイートしてる。だってどっかの誰かが、俺とまったく同じような気分でいるかもしれないだろ? あの曲を録ってる時、俺は実際にケータイでTwitterを開いて、ツイート内容をランダムに読み上げていったんだ。自分の中にいるもう1人の自分と格闘してる、そういう感じが出るようにね。誰もが脆い部分を抱えていて、それと向き合わないといけない時が必ずくる。ぬるま湯に浸かってるのは楽だけど、誰もがいつかは立ち上がり、自分らしく生きるために行動を起こさないといけないんだ。
―アルバムの後半はソフトな曲が並んでいる中で、最終曲の「ADHD」では再びハードなサウンドを用いています。ああいった形でアルバムの幕を閉じることにしたのはなぜでしょう?スロウタイ:物語を通じて自分が気づいたことや感じたこと、それが要約されてると思ったんだ。曲の前半はまだ我慢してるようなところがあるけど、終わりに近づくにつれて怒りだけでなく、ありったけの感情を絞り出そうとしてる。俺自身もADHDを患ってるけど、活動過多で物事に集中できず、自分の居場所が見つけられなかったり、自分が何者なのかを理解できずにいる子供たちが、このアルバムから何かを感じ取ってくれたらと思ってる。全体的にささくれ立ってるのは、そういう背景があるからだ。
自分がフューチャーやジェイ・Zのようにはなれないと悟ることで、逆に自信が深まっていくのを感じるんだ。気に入られようが嫌われようが、どっちでもいいさ。はぐれもので変人、それがTyronとしての俺なんだよ。俺にとって音楽は、誰かに本当の自分を知ってもらうための手段なんだ。俺と同じように感じてるキッズは、きっと星の数ほどいる。彼らがこのアルバムを聴いて「これは俺のことだ」って感じてくれたら、願ったり叶ったりだよ。
From
Rolling Stone US.
スロータイ
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