ビリー・アイリッシュが語る「悪夢」と「希望」、トラウマと葛藤、過去の自分との決別

ビリー・アイリッシュ(Photo by Yana Yatsuk for Rolling Stone)


過去の自分との決別

「昨日ママがこう言ってたの」。ビリーはそう切り出した。「かつてないくらい幸せだって感じていても、自分が他の誰よりも幸せだというわけじゃない。以前の自分よりも幸せっていうだけ」

鬱、身体醜形障害、自傷行為、自殺願望などがつきまとった思春期を経て、ビリーはツアーでヨーロッパを回っていた2019年の夏に、ようやく気持ちが上向いてくるのを感じていた。『WHEN WE ALL FALL ASLEEP 〜』をリリースしたばかりだった当時、セラピストにかかっていた彼女はボーイフレンドと別れたばかりで、そのツアーには親友の1人が同行していた(両親と兄も一緒だったことは言うまでもない)。「すごく気分がよかった」。彼女はそう話す。「本当の自分でいられてる気がして、周囲の人や物も全部あるべきところに収まっているように感じてた。成長してると思えたし、かつてない幸せを感じてた。そういう状態を持続させたかったの」

2020年の初頭はまさに波瀾万丈だった。ビリーはグラミーの主要4部門を制覇し、1年を通して行われる予定だったヘッドラインツアーをスタートさせた。足首の捻挫や脛の痛み、慢性疼痛に悩まされた以前のツアーとは比べ物にならないほど、彼女のモチベーションは高まっていた。パンデミックによってその大半がキャンセルされたものの、彼女は最初の3公演を全力でやり切った。

彼女が今年のグラミー賞授賞式で、シングルの「Everything I Wanted」をフィネアスと共に演奏したことには、『WHEN WE ALL FALL ASLEEP 〜』期の自分(と彼女のイメージを決定づけたルック)と決別する意味があった。『Happier Than Ever』はほぼ完成していたが、新たなブロンドヘアのルックを披露する準備ができていなかったため、彼女はグリーンとブラックのウィッグを着用していた。「変な感じだった」。彼女はそう振り返る。「発表前の新曲が16曲もあるのに、髪が緑だった頃の自分を演じながら、1年半も前に出した曲を演奏したんだから。私が過去の自分と決別しようとしてるってことを、ファンも気付いてなかった。それって悲しくもあり、心温まるようにも思える」



世界が完全に停止している中で進められた『Happier Than Ever』の制作を通じて、彼女は抱えていたトラウマと正面から向き合った。「クレイジーなことを山ほど経験して、誰のことも信用できなくなってた」。彼女はそう話したが、詳細については明かさなかった。

ビリーのあらゆる行動がそうであるように、その歌詞は常に議論を巻き起こし、横目の絵文字を氾濫させ、リスナーは誰のことを歌っているのかについて様々な持論を展開する。同作の曲群では、自分自身あるいは彼女がよく知る人々の経験の一部がモザイクのように組み合わせられ、怠け者、秘密の恋人、精神的虐待の加害者などが登場する。ビリーは具体的な名前や詳細を明かそうとしないが、それは実体験のみに基づくものではないという。その一方で彼女は、新曲群で歌われるストーリーの数々が「ほぼ全部フィクションだった」という『WHEN WE ALL FALL ASLEEP 〜』よりも率直であることを強調する。

ビリーは、誰かの気分をよくするために自身の感情を抑えていた過去の自分に別れを告げようとしているという。「誰かによって自分の気持ちが大きく揺さぶられるたびに、私はその相手が自分をどういう気持ちにさせるかを伝えてた。すると相手は、こんな風に答えたんだ。『それを受け止める準備はできていない。今は無理だ。自分には対処できそうにない』」

あまりに長い間「苦痛を与えられてきた」と話す彼女は、曲のテーマとなる有害な特性が痛みから生まれることが多いことを知りつつも、それを受け入れるべきではないことを悟ったという。「ある友達と話していて、トラウマになるような出来事についてたくさん聞かされたんだけど、私はその人にこう言ったんだ。『自分が傷ついたからって、誰も彼もをゴミみたいに扱う必要はない』って。何かがきっかけでトラウマを抱えて疑心暗鬼になっていたとしても、他人を傷つけていいということにはならない。絶対にね。世界はとにかく言い訳に満ちてると思う。どっちを向いても言い訳だらけ」

アルバムの幕開けを飾る「Getting Older」を生み出すプロセスは、一際大きな苦痛を伴った。アタックの際立ったシンセに合わせて、彼女は“望んで苦痛を味わったわけじゃない”と歌う。曲の終盤で、彼女は胸の内を曝け出している。“私はトラウマを抱えてた / 意に反することもやった / 怖くてあなたには言えなかった / でも今がその時だと思う”。その生々しさがリスナーにショックを与えるであろうことを、ビリーは自覚している。「あの曲は途中で、作業を中断しないといけなかった。あまりにリアルで、泣いてしまいそうだったから。しかも、ここで歌っているのは真実なんだ」


>>>【後編を読む】ビリー・アイリッシュ『Happier Than Ever』制作秘話「二度とアルバムは作らないつもりだった」

From Rolling Stone US.




ビリー・アイリッシュ
『Happier Than Ever』
2021年7月30日リリース

ビリー・アイリッシュ日本特設サイト:
https://sp.universal-music.co.jp/billie-eilish/

Translated by Masaaki Yoshida

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