リオン・ブリッジズが語る「レトロ」からの脱却、グラスパーなど音楽家との化学反応

「僕はもっと色んなことができる」

—1stアルバムはテキサスで作りましたよね。2ndアルバムはテキサスとカリフォルニアで作りました。そして今回はほとんどがカリフォルニアのゴールド・ディガーズで作られています。テキサスとカリフォルニア、あるいは、そのほかの土地でも、どこで曲を書くかによって、その風土の影響を受けますか? このアルバムにそれが表れていますか?

リオン:そうだね。1stアルバムは全部テキサスで作ったから、曲にもテキサス的なものが反映されている。あのアルバムに参加してくれたミュージシャンもテキサスの人たちだしね。『Gold-Diggers Sound』はLAで、LAのプレイヤーたちと作ったアルバムだから、ロサンゼルスが反映されている気がする。これは僕の「ロサンゼルスR&Bアルバム」みたいなものだよ。


Photo by Pavielle Garcia

—となると気になってくるのが「Gold-Diggers」というインストゥルメタルですが、ファンファーレのところなどメキシコ的なものも感じられます。これはなぜですか?

リオン:面白いことを言うね(笑)。自分ではそう思ったことがなかったよ。言われてみれば確かにメキシコっぽい雰囲気があるなぁ。あの曲にはプロデューサーのリッキー・リードがキュレーションしてくれたホーン・プレイヤーたちが参加している。インタールードでアルバムにちょっとしたアクセントをつけたかったんだ。

—あの曲があることで、アルバム全体の流れにもダイナミクスが生まれていますよね。

リオン:間違いないね。このアルバムで気に入っているのが、とても一体感があるということなんだ。曲の流れも、聴き手を旅に連れて行くような感じだしね。



—あなたのデビュー作『Coming Home』は、レトロスペクティヴなソウル、R&Bの色が強いものでした。60年代から抜け出てきたような。デビュー当時そのままのスタイルを守るアーティストも少なくないですが、あなたは2nd、そして今回の3rdで、よりモダンなサウンドへと変化してきました。これは当初からの予定通りなのでしょうか?

リオン:アーティスティックな意味での進化や変化は必然に近いものだと思う。実は『Coming Home』を書く前から自分の曲にはそれよりも進歩的な曲が結構あったんだ。そういう曲は寝かしておいた。デビューして、すぐに型にはめられてしまったのが、その後の変化の理由なんだよ。

—レトロ・アーティストという感じのレッテルを貼られてしまったということでしょうか。

リオン:そう、そういうことだよ。「スローバック」とか「レトロ」とか、そういうレッテルを貼られた。それはアーティストとしての僕を完全に小さくしてしまうものだった。だから、僕はもっと色んなことができることを見せたかった。自分のインスピレーションにももっと正直になりたいと思ったんだ。僕はオーティス・レディングやサム・クック、ジョン・コルトレーンが大好きだけど、同時にアッシャーも大好きだし、フランク・オーシャンも最近のR&Bも大好きだからね。『Coming Home』の時は、R&Bの全体像を見てあの手のサウンドが欠けていると思ったから、自分の曲を60年代の美意識を軸に形作っていったんだ。



—今回のアルバムは、前作と同じくリッキー・リードやネイト・マーセローと組んでいますが、肌合いは少し違いますね。音楽的に、とりわけビート面でよりプログレッシヴな方向に進みつつも、生々しいホーン・セクションやより重要な楽器になったギターの使い方にはオーガニックな感触も感じます。その2つが共存しているところがこのアルバムの良さだと感じます。このアルバムの制作過程で、前2作と最も違ったのは何でしょう?

リオン:今回のプロセスを先の2作と比べてみると間違いなく違うね。ここまでセッションでクリエイティヴな世界に没頭するということはなかった。暮らしと創作が同じ場所だったことが大きいよ。『Good Thing』を作ったときのプロセスは、ひとり部屋の中で、プロデューサーのライブラリからビートをピックアップして、作っていくというものだった。『Gold-Diggers Sound』の場合は曲の大半がミュージシャンとのジャムから生まれたものなんだ。その点では『Coming Home』に近い。あのアルバムもたくさんのミュージシャンとライヴのように録音したからね。初めから最後まで一気にプレイしたから、そういう意味でとても自然発生的な作りだったんだ。

—そもそも滞在型のレコーディングをしようというのはどういういきさつで決めたのでしょうか。

リオン:アルバムの制作には2年くらいかかっているんだけど、その中でクリエイティヴな壁にぶち当たったからだ。僕は通常昼間に作業するけど、ゴールド・ディガーズで夜にセッションをやってみたらどうだろうという話になった。美学的にインスピレーションを与えてくれる場所にいけばクリエイティヴィティが刺激されると思ってね。ゴールド・ディガーズはそういう意味で理想の場所だったんだ。

—リッキー・リードは前作からの間にソロ・アルバムを発表したり、リゾで巨大な成功を収めたりしました。彼のプロダクション・スタイルにも、前作から変化がありましたか?

リオン:うーん……そうだと思うね。リッキーはそのアーティストに合わせた音楽を作れるプロデューサーなんだ。彼らしいヴァイブや音楽性をもたらしながらもリゾにあった曲をどう形成すればいいかを心得ている。その曲はリゾにだけ似合う曲なんだ。ショーン・メンデスの曲を作るときもショーン・メンデスに合ったものを作る。そして僕の世界にやってきたときは、僕らしさのエッセンスを大切に保持しつつ、音楽をもっと進歩的にしてくれた。それは中途半端にやる訳にはいかない。違っていても純粋に自分らしいものを作らないとファンが離れていく可能性もあるしね。



—もうひとりのプロデューサー、ネイト・マーセローはギタリストで、あらゆる楽器を演奏していますね。彼はどんなミュージシャンですか?今回はどんなものをもたらしてくれたのでしょうか。

リオン:僕に言わせれば、二人のギタリスト、ネイト・マーセローと、僕の盟友のスティーヴ・ワイアーマンがこのアルバムの本質的なものを作ってくれた。アルバムを作る前に、リッキーにはギターの存在感をもっと強いものにしたいと言ったんだ。ネイトのプレイやスタイルはこのアルバム全体を縦横無尽に駆け巡っている。クレイジーだったよ。彼と同じ空間にいて一緒にクリエイトしていると、彼のギターが僕にまで伝染してくるような感じだったんだ。


ネイト・マーセローのデビュー作『Joy Techniques』にもリッキー・リードとテラス・マーティンが参加

—ちなみにゴールド・ディガーズのホテルに泊まったのはあなた1人だったのでしょうか。それともみなさん一緒に?

リオン:泊まったのは僕1人だよ。他のメンバーはみんなスタジオに通っていた。滞在中のスケジュールはこんな感じだった。スタジオの作業は午後5〜6時くらいからだったから、日中はギターを弾きながらアイデアを練ったりして、セッションがスムーズに進むように準備していた。それからホテルの隣にジュース屋があって、そこで毎日ジュースを調達していたね。ギターを弾いて、ジュースをゲットしてからスタジオに行って、そこでマジックを作ったんだ。

Translated by Sachiko Yasue

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