ポール・マッカトニーのベースプレイが生み出すグルーヴ、鳥居真道が徹底考察

先日、『Get Back』を観終えようとする友人から電話がかかってきて雑談していたのですが、そのなかで「改めてビートルズで一番好きな曲は何?」と聞かれました。この質問にはいつも『A Hard Day’s Night』収録の「You Can’t Do That」と答えています。けれどもなぜだか信じてもらえません。



「You Can’t Do That」は叩き上げのロックンロールバンドとしてのビートルズが辿り着いた極北だと考えています。ワイルドさと洗練が不思議なバランスで同居するとても魅力的な曲です。ジョージが演奏する新兵器、12弦ギターのファンキーなイントロが印象的です。ジョンの嗄れたボーカルはクールとしか言いようがありません。『恋のからさわぎ』でヒース・レジャーが演じていたセクシーな不良とでもいうべきチャームがつまっています。ジョンの弾く荒々しいギター・ソロもまたハイライトのひとつといえるでしょう。ポールとジョージの兄弟のようなコーラスも迫力があります。

特筆すべきはポールのベースです。フレーズの前半部分では、ベースの音域のうち4番目に低い音である4弦3フレットのGを短い音価で刻んでいます。ホフナー製ヴァイオリンベースのかわいらしいトーンでぼやけていますが、フレーズのボトムは低く設定されています。地味ながら凄まじいのは、その後に来るフィルです。歌の合いの手的に挿入される細かいハンマリングを交えたトリッキーな譜割りのフィルは、同時代のソウルやR&Bとはまた違ったファンキーさを醸しています。1964年にあってかなり革新的だといえるでしょう。聴くたびにハッとするフレーズです。そして、ボトムの低いタイトなルート弾きを前フリとして、素早いパッセージでオチをつけるという一連の動きは、姿勢を低くして足踏みをした後にバク宙を華麗に決めるかのようなダイナミックな流れとなっています。

ベーシスト、ポール・マッカートニーの第一の開花は「You Can’t Do That」にあるように思います。ポールのベースは一貫してこうしたひらめきに満ちています。

ポールのベースにうっとりしながら曲を聴き込んでいたせいか、2分10秒あたりで若干タイミングを外している箇所を見つけるというあまり嬉しいとはいえない誤算もありました。ミュージシャンはミスを恐れるあまり体がこわばってむしろミスを連発するという事態に見舞われがちです。天下のポール・マッカートニーですらミスを残していると思えば、多少の慰めにもなるでしょう。無理矢理教訓めいたことを引き出す必要もないのですが。

Rolling Stone Japan 編集部

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