ポール・マッカトニーのベースプレイが生み出すグルーヴ、鳥居真道が徹底考察

「You Can’t Do That」に似たアプローチは、同時期に録音された「I Call Your Name」にも見られます。具体的にはヴァース部分のC#7からF#7へと移る箇所です。この曲はジョンがデビュー前に書いた自作曲のひとつだそうですが、すでにキャロル・キングとジェリー・ゴフィンの作風を我がものにしているように感じられます。



「I Call Your Name」といえば間奏のギター・ソロ部分でスカのリズムをいち早く取り入れたことでおなじみです。ジョンが弾く裏打ちのコードカッティングはシャッフルのリズムです。イントロからアウトロまでこの箇所以外はハネないストレートのリズムで演奏されていますが、このセクションのみリズムがハネています。ポールは音価により、そしてジョージは譜割りによってリズムチェンジに応じるのですが、なぜかリンゴだけハネずにストレートのまま押し通します。これはこれでおもしろいと言いたいところですが、どうしてもちぐはぐに感じてしまいます。初めて聴いたときから取ってつけたような印象がどうしても拭えませんでしたが、その原因はここにあったのだと最近になって気が付いた次第です。

「You Can’t Do That」や「I Call Your Name」で披露された例のベース・フレーズはポールの癖と化していたようで、『Rubber Soul』収録の「The Word」でも聴くことができます。この曲はビートルズの楽曲のなかでも群を抜いてグルーヴコンシャスな曲で、ダンスフロア仕様のアレンジといって差し支えないないでしょう。ジェームス・ブラウンの「Papa’s Got A Brand New Bag」の影響を感じさせます。そして、ポールが弾くピアノのイントロがこれまたファンキー。モータウンやスタックスのサウンドに呼応するヤワなソウル(ラバーソウル)バンド、ビートルズの面目躍如といったところです。

ポールは『Rubber Soul』のレコーディングに取り組むタイミングで、ヘフナーのヴァイオリンベースからリッケンバッカー4001Sに持ち替えたそうです。低音成分の増加によって、ますますベースを弾くのが楽しくなっているポールの様子が窺えます。新たな玩具をゲットした子供状態といっても良いでしょう。『Rubber Soul』は全編を通してベースが冴え渡っています。



「The Word」は「ダラダッダ・ダラダッダ」というリズムの上昇フレーズと下降フレーズが繰り返されるベースリフが印象的です。これを基調としつつ、随所に遊びのフレーズが挿入されます。ここに例のフレーズが登場するというわけです。遊びのフレーズはバリエーションに富んでおり、シンコペーションもお手の物で、ポールの名人っぷりが遺憾なく発揮されています。

他の名人に漏れず、ポールもやはり音価コントロールがきめ細やかです。たとえば「イッツソーファーイン」と歌われるブリッジ的な箇所のフレーズはレガートで演奏して流さずに、一音ずつ減衰で谷を作ってリズムを強調しています。

Rolling Stone Japan 編集部

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