塩田明彦と向井秀徳、「人生がシンクロしている」二人が語る映画とロックの融合

ダークブルーな二人

ーこの映画では音にも驚きました。効果音も含めて録音やミックスがすごく良い。祐介のバンドの演奏を聴いた時、エレキ・ギターの生々しさにしびれました。

向井:高校生のバンドが音楽室で鳴らしている空気感がすごく出ていましたよね。私はこの映画に存在する「音場」にすごく反応したんです。なかでも風の音。ずっと風がヒューッと鳴ってるんですよ。海辺でも街の中でも。

塩田:この映画に限らず、僕の作品はノイズ過多なんですよね。乱暴なノイズがあちこちで響いている。最初に徹底的にそういう音作りをしたのが『害虫』でした。あの映画は風を意識していて、自分のなかでは「鉄風」だと思っていました。

向井:鉄の風が吹いている?

塩田:そう。今回は鉄成分は主にギターに集中していますけど、足音ひとつ取ってもじゃりじゃりと響く。すべての音がざわついている感じというのは最初からイメージしていました。

向井:監督の映画は音を通じて世界が見えてくる。そこに塩田明彦の匂いみたいなものが漂っているんですよ。私はそういう作り手の個性が伝わる映画が好きですね。


『麻希のいる世界』より、由希役の新谷ゆづみ(©SHIMAFILMS)

ーちなみに、向井さんが感じる塩田監督の「匂い」というのはどんなものですか?

向井:色でもいいですか? 色ならダークブルーですね。

塩田:それは濁りと深さを秘めているということ?

向井:重厚感ですね。重苦しいっていうことじゃなく、どしっと世の中を見据えているように思える。塩田さんは重厚で分厚い人。

塩田:そんなことないよ(笑)。

向井:本人の印象というより、映画を通して感じることですけどね。塩田さんの映画はダークブルーの匂いがする。

ー塩田監督は向井さんの音楽から何を感じますか?

塩田:う〜ん。なんて言ったらいいのかわからないけど、強さ、かな。向井さんがかっこよく色で表現したから答えようがない(笑)。

向井:監督も色で言ってくださいよ。どんな色ですか? 占いの館みたいになってきたけど(笑)。

塩田:……鉄錆の色かな。

向井:おお。錆びてますか?

塩田:ZAZEN BOYSになってからは多少変わったと思うんですけどね。でも、向井さんにも黒さと青さは感じますね。


『麻希のいる世界』より(©SHIMAFILMS)

ーダークブルーな二人。だから相性が良いのかもしれませんね。

塩田:これは本当に不思議なんですけど、いつも音楽には恵まれるんですよ。常にいい音楽が手に入る。これは自慢しても良いことかもしれないですね。

向井:映画の音楽を作っていて楽しいのは、監督と一緒に世界を作れることなんです。塩田明彦という人がいて、その人が作り出した少女がいて、物語がある。私は「その少女がどう歌うのか?」というのを考えるのではなく、その少女に反応したんです。少女に同化したわけじゃなく、塩田さんに反応した。だから、塩田監督が誰かに声をかけた時点で映画作りは始まるんじゃないかと思いますね。




『麻希のいる世界』
2022年1月29日(土)より渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館ほかにて公開
出演:新谷ゆづみ・日髙麻鈴・窪塚愛流・鎌田らい樹・八木優希・大橋律・松浦祐也・
青山倫子・井浦新
監督・脚本:塩田明彦
製作:志摩俊樹・山口貴義
撮影:中瀬慧
劇中歌:「排水管」(作詞・作曲:向井秀徳)、「ざーざー雨」(作詞・作曲:向井秀徳)
製作・配給:シマフィルム株式会社
2022年/日本/89分/5.1ch/アメリカンビスタ1:1.85/DCP/英題:The World of You
©SHIMAFILMS
公式サイト:https://makinoirusekai.com/

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