ロードとデイヴィッド・バーンが語る、表現者としての葛藤とソングライティングの秘密

曲作りの秘密、あがり症の克服

ロード:私はあなたがポップなメロディを生み出す天才だと思っていて。あなたは昔からそういうものに惹かれていましたか? それともソングライターとしての才能が、自然にそういうメロディを生み出すのでしょうか?

バーン:昔から惹かれていたね。親しみやすいポップなメロディを書くのを恐れたことはないよ。最初からできたわけじゃないと思うけどね。

ロード:できていたと思いますよ。

バーン:嬉しいね、ありがとう。初期の曲を聴くと、何かを伝えようと必死になっているように感じるんだ。いいことでもあるけどね。好きなアーティストの曲が弾きたくて、いろんな楽譜を買ったっていう人は多いと思う。曲自体はさほど好きじゃなかったけど、その構造が知りたくて譜面を買ったこともあった。そういう曲をギターで弾きながら歌ったりしていたよ、1人でね。「なるほど、このコードからあのコードへの流れは叙情的な響きを生むんだな。覚えておかなきゃ」。そんな風に学んでいたんだ。

ロード:そういう一面もあるんですね。初対面の人に挨拶するような気さくさもそうですが。

バーン:そうだね。美しい曲を書くことに抵抗を覚える必要なんてない、私はそのことを学んだんだ。深刻なテーマや過激な表現を、胸にしみる美しいメロディと組み合わせても構わないんだよ。そういうものは聴き手を曲の世界に引き込んで、その人の考え方なんかにも影響を与えるかもしれないんだ。


Photograph by Shaniqwa Jarvis for Rolling Stone. Lorde: Suit and shirt by Gucci. Byrne: Suit by Rowing Blazers. Shirt by Brioni.

ロード:美しいメロディを書くことに抵抗を覚えていた時もあったということですか?

バーン:そうだね、表現は尖っていなくてはならないと感じていた時期もあった。快いものが浅はかだと見なされることを恐れていたのかもしれない。シリアスな内容がそぐわない、グリーティングカードのようにね。でも他のソングライターが書いた、深く重要なメッセージが込められた素晴らしい曲を聴くと、「そうか、これはありなんだ」って思えるんだ。

ロード:あなたの作品の一番の魅力は、やっぱりその美しさだと思います。

バーン:ありがとう。「The Man With the Axe」という君の曲に、「何百着ものガウン」っていう言葉が出てくるよね。あれは何を意味しているんだろう?

ロード:私にはきょうだいが3人いるんですが、私はいつも姉のお下がりを着ていたんです。私が買ってもらった服は少なくて、お小遣いもあまりもらっていませんでした。だから16歳になってクレジットカードを使えるようになった時は、「遂に!」って感じでした。あの曲では、あのフレーズの後「フェスに出るたびに 私の喉はパニックで塞がれてしまう」って歌っているんです。私はすごくあがり症なので。



バーン:それをどう克服しているの?

ロード:克服できていないんです。解決しないといけない、私にとって深刻な課題なんです。過去の自分が未来の自分に伝えようとしていることを紙に書いて、ステージ上のどこかに貼っておくっていうのも試しました。でも、まだ克服できていないんです。

バーン:私も若かった頃、舞台に立つことを楽しんでいたとは決して言えない。ステージ上ではスピーチをしたり、挑発的なことをしたりしていたけど、ショーが終わった瞬間に普段の自分に戻っていたよ。

ロード:今はどうですか?

バーン:今でも少しは緊張するけど、以前ほどじゃないよ。

ロード:「あのドアから通りに出て、そのまま逃げてしまおう」なんて思ったことはないですか? 私は時々そう思ってしまうんです。「近所を車で4時間走っている間に、ショーが終わるはず」なんていう風に。

バーン:いや、そんな風に考えたのはもうずっと昔だね。

ロード:私のあがり症がパンデミックによって悪化したのか改善したのか、まだ確かめることができていないんです。新しいアルバムはこれまでよりも穏やかだと思うので、ステージ上でもリラックスできるかもしれないと期待しているんですが。音楽性がいい方向に影響してくれたらなって。ステージに立つ前に必ずすることや、一瞬で本番モードに切り替える方法なんかはありますか?

バーン:そういうのは特にないね。私は常に、何かしらの作業をするよう意識している。ジンジャーティーをいれてみたりね。スライスした生姜を水筒に入れて、レモンか何かと一緒に熱湯を注ぐ。そうこうしているうちに、15〜20分くらい経ってしまうんだ。その間は、自分がこれからステージに立つんだと意識しなくて済むんだよ。

ロード:いいですね。ツアーに出る時、私はよくパズルをしています。ピースをはめようとしている時に開演時間になることが多いんですが、もしかしたら緊張を和らげることにはなっていないのかも。気持ちの切り替えが難しくて。最初の曲をプレイしている間、まだパズルのことを考えていたりするんですよね。



バーン:パンデミックの間、私はセラピー代わりに絵を描き始めたよ。よく料理もしていた。

ロード:それについても聞いてみたかったんです。あなたは食べることや料理を作ることに熱心な方ですか?

バーン:料理は好きだね。過小評価されているけど、あれはクリエイティブなアートフォームだよ。

ロード:同感です。

バーン:何かのレシピを暗記したら、それ以降は自分なりにアレンジすることができる。酸味のある材料を似た何かに置き換えるだけでも、味が少し変わるからね。それって音楽と似ていると思う。何かが足りないんだけど、それが何なのか特定できない。それで友達に食べてもらって、「どう思う?」なんて聞いてみるんだ。パンデミックの間はそうもいかなかったけどね。冷凍庫がいつも残り物でいっぱいになってたよ。

ロード:私もよく料理をするんです。レシピは見ないで、直感に頼るタイプなんですが。オリジナルの調味料を作ってみたり。

バーン:調味料っていうと、チャツネか何かかい?

ロード:そうです、チャツネとかジャムとか。甘くないやつです。

バーン:友達には喜ばれるだろうね。

Translated by Masaaki Yoshida

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