『ウエスト・サイド・ストーリー』時代を超越した名曲は、どのように生まれ変わった?

 
「刷新」と「維持」

1961年の映画版は熱狂的に支持されたが、根本的な問題がひとつあった。主要なプエルトリコ人キャラクターの2名を、プエルトリコ人ではなく白人の俳優が演じたのだ(ベルナルド役のジョージ・チャキリスとマリア役のナタリー・ウッド)。ソンドハイムも「人種差別がテーマと言われているが、それは物語を進める手段に過ぎない」とコメントしており、当時は今ほど人種問題が重く見られていなかったことがよくわかる。悪く言うと、ストーリーを転がすための道具として、ニューヨークにおける異人種間の衝突を利用したようなところがあるのだ。



スピルバーグ版も厳密に言うとシャークスの全員がプエルトリカンの役者というわけではないが、ラテン系の役者で統一した。シャークスがプエルトリコの国歌「ラ・ボリンケーニャ」を歌うシーンも加え、異人種間の衝突という側面をオリジナルより際立たせている。この問題こそが『ウエスト・サイド・ストーリー』を新たにリメイクさせた動機のひとつでもあり、2020年代も差別や対立が絶えない他民族国家アメリカの根深い問題を浮き彫りにしていく。

もうひとつ注目すべきは、1961年の映画でアニータ役を演じたリタ・モレノが新たにヴァレンティーナという重要な役柄を与えられて出演、本作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めていること。彼女は1961年版のキャストでは数少ない、プエルトリコからの移民だった。


シャークスのリーダー/マリアの兄・ベルナルドを演じるデビッド・アルバレス (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.



今回、楽曲のアレンジを担当するという重責を果たしたのは、デヴィッド・ニューマン。映画音楽の巨匠、アルフレッド・ニューマンの息子で、ランディ・ニューマンの従弟である彼は、『ビルとテッドの地獄旅行』や『ナッティ・プロフェッサー』など数多くの映画にスコアを提供してきたコンポーザーだ。彼が起用された背景には、スピルバーグ作品の常連で、今回サウンドトラック盤のブックレットにコメントを寄せたジョン・ウィリアムズの存在があったという。ニューマンは broadwayworld.com の取材に応じて、こう答えている。「ジョンが私をスピルバーグに推薦してくれた。私はこのような仕事はしたことがないし、おそらく今後もすることはないだろう。私は、他の人のためにオーケストレーションや編曲をする人間ではないんだ。でも、『ウエスト・サイド・ストーリー』には何かがあったし、大好きな作品だから手伝いたかった」。

着手後、アレンジの方向性について悩んだ結果、オリジナルのバーンスタインの持ち味を尊重することにしたという。「音楽をオリジナルからあまり変えないというこだわりは、何度も試行錯誤を繰り返した末に生まれた。最初はいろいろと変えてみたりしたが、どうもしっくりこなかった」。classical-music.com のインタビューでも、同様に「基本的に私の仕事は、レナード・バーンスタインのヴィジョンを維持することだった。現代風にしたり、アレンジを大きく変えたりすることは避けたかったんだ。もちろん、そのようなことも必要だったが、派手なことは一切したくなかった」と説明している。〈時代を超越した音楽である〉という前提で、余計な装飾は加えることなく、1曲ずつ丹念に磨きをかけていく作業になったようだ。が、中にも例外はあって、今回リタ・モレノが歌うことになった「サムウェア」がどういう形に着地したのかは、1961年版のサウンドトラックと聴き比べて確認して欲しい。



 
 
 
 

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