『ウエスト・サイド・ストーリー』時代を超越した名曲は、どのように生まれ変わった?

 
リメイク版ならではの特色

1961年版とスピルバーグ版を見比べると、前者にファンタジックな演出がいくつもあったのに対し、後者はそのような表現から距離を置いているように見えた。色彩ひとつとっても、カラー映画であることを意識してポップな配色を強調したと思われる1961年版に対し、スピルバーグ版はもっと写実的に都市の〈色〉を見せようとしている。

そうした印象は音楽にも共通するところがある。歌を吹き替えていた1961年版と違い、役者自身の歌唱を活かしたスピルバーグ版は、オリジナルにあった芝居がかったところが幾分丸められたようで、スムーズに耳に入ってきた。主役の2名、アンセル・エルゴートとレイチェル・ゼグラーの適度にエモーショナルでバランスの良い歌唱は、普通に会話を交わすカップルのようにごく自然だ。それはオーケストレーションにも言えることで、過度にドラマティックになり過ぎず、気持ち抑え目のトーンに調整しながら、全体の解像度を上げていく狙いがあったのかもしれない。こちらのヴァージョンでサウンドトラック盤を聴いてから1961年盤やオリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤に戻ると、随分メリハリが効き過ぎているように感じた。




また、ヴァレンティーナという新しいキャラクターが加わったことで、マリア、アニータとプエルトリカン女性3人の存在が浮かび上がってきたことも実に新鮮。多くの観客が先に結末を知っている〈古典〉だが、こうした変更ひとつでオリジナルとはやや異なるディテールが追加され、女性たちの群像劇としても楽しめるようになった点は、リメイク版ならではの特色として挙げておきたい。


マリア役を演じるレイチェル・ゼグラー (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.


アニータ役を演じたアリアナ・デボーズ(中央) (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画の公開に先駆けて、カリ・ウチスとオズナが、本作と連動したイメージソング「Another Day In America」を発表している。これはバーンスタイン&ソンドハイムの「アメリカ」をベースに、より今日的な内容のリリックを乗せたもの。「アメリカですべてが変わった/アメリカじゃ何も変わっちゃいないことを除いてはね」と歌われるコーラスが、本作の内容と重なって強く印象に残る。カリ・ウチスの両親は90年代初頭、政情が不安定だったコロンビアからアメリカに逃れてきた移民。オズナはプエルトリコ出身の父とドミニカ出身の母の間に生まれ、一時はプエルトリコからニューヨークへ移住した時期もあったという。移民の街を舞台にした本作にそぐう人選の、決して聴き流すべきでないメッセージを含む曲だ。






『ウエスト・サイド・ストーリー(オリジナル・サウンドトラック)』
発売中
配信・購入:https://umj.lnk.to/WestSideStory_OST



『ウエスト・サイド・ストーリー』
全国公開中
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■製作:監督:スティーブン・スピルバーグ
■脚本:トニー・クシュナー
■作曲:レナード・バーンスタイン
■作詞:スティーブン・ソンドハイム
■振付:ジャスティン・ペック
■指揮:グスターボ・ドゥダメル
■出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ

公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory

 
 
 
 

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