林哲司×土岐麻子のシティ・ポップ談義 洋楽が日本語ポップスに与えた影響を辿る

 
「サバンナ・バンド歌謡」と土岐麻子の個性

─今回『melody of memory』にはボーナストラックとして、土岐麻子さんが歌う新録曲「ナイト・イン・ニューヨーク」(エルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズのカバー)が収録されています。

林:土岐さんとは一度お仕事したいと思っていたんです。候補曲は土岐さんが以前から聴いていた洋楽からいくつかいただいて、その中から選ぶことにしました。そこに「ナイト・イン・ニューヨーク」があったんです。これは自分でも絶対選んだ曲だったので、ぜひとお願いしました。

土岐:私はこの曲は2000年代初頭くらいから歌いたいと思ってたんです。当時、DJから教えてもらったんです。「カバーしたいな」と思ってライブでは何度か歌ったことはあったんですが音源化はしてなくて。憧れと同時に曲に対する謎みたいなものも自分のなかにすごくあって。

林:謎?

土岐:この曲が当時の日本の作曲家たちにどういう影響を及ぼしていたんだろう?という謎です。このサウンドから影響を受けていたんだろうと思える曲がすごく多いんです。

林:なるほど。鋭いですね。みんな一番注目したのはベースラインではないかと思うんです。ダッダッダ、ダッダダッダダという独特のフレーズ。そこがすごく気になって。ルーツはわからないけど、かっこいいんですよね。



「ナイト・イン・ニューヨーク」 上から土岐麻子バージョン、エルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズの原曲

─曲調としてはビッグバンド・ジャズですよね。

林:リズムの上に乗っているのはビッグバンド・ジャズなんですけど、あのベースラインとの組み合わせはちょっと発明的なんです。

土岐:プロデューサーのキッド・クレオール(オーガスト・ダーネル)はベーシストでしたよね?

─そうです。そこも発明に関係しているかも。彼が最初に世に出たグループ、ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンドの曲にも同じような特徴があって、そういうニュアンスのある80年代の日本のポップスをDJたちは「サバンナ・バンド歌謡」と言って探してましたね。

土岐:私も最近その言葉を知って、そんな括りがあるんだとびっくりしました(笑)。海外では他に似たようなスタイルのバンドは探せなくて、あえて探して出てくるのは日本にあるいろんな「サバンナ・バンド歌謡」だったんです。



ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンド「I’ll Play The Fool」、サバンナ・バンド歌謡として知られる竹内まりや「戻っておいで・私の時間」

林:今回、土岐さんの歌が入った瞬間、このキャスティングは大成功だと思いました。

土岐:カバーする時は自分なりの味を出そうとするんですけど、この曲は好きでずっと聴いてたし、船山さんのアレンジも原曲に対して忠実な感じだったので、私も自分なりにしようとは考えず、原曲になりきって歌おうと思いました。

林:いや、でもやっぱり土岐麻子というきちっとしたIDは見事に出てましたよ。船山さんはオリジナルになかったストリングスも入れているし、原曲を知ってる人にも意外な楽しみを持ってもらえると思います。

─洋楽の影響を受けて、日本のちゃんと個性を持ったシンガーに歌ってもらうという意味では、林さんがシティ・ポップの時代からやられていた発想とも同じ並びですよね。この先、林さんと土岐さんのコラボレーションの続きも期待してしまいます。

二人:ぜひ!

林:僕は土岐さんの歌声や歌詞を聴いていると、音楽家としてくすぐられるところがあるんです。例えばブラジルのボサノヴァを直に受け取るというより、ヨーロッパ経由にしたことでひとつ屈折して、陽気さだけでなく曇り空みたいな感覚もある空気感になる。そういう要素を土岐さんは持ってる気がします。独自の個性としてそこがいいなと思ってるので、そういうところで僕がコラボできたらいいなと思ってます。

土岐:ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします! 私も、先ほど林さんがおっしゃった行間の音楽というか、あまり説明的でないけど確かに共有できるような良さがやっぱり好きなので、そういう曲でご一緒できたら!

林:若い人たちにもメロディのある、いい作品をこれからも聴いてもらえたらなと思います。




『melody of memory – City Pop of Tetsuji Hayashi Selection』
発売中
詳細:https://store.universal-music.co.jp/product/uico4063/

【収録曲】
01. ブレンダ・ラッセル/ピアノ・イン・ザ・ダーク
02. ボズ・スキャッグス/ジョジョ
03. クラシックス・フォー/トレーセス
04. スウィング・アウト・シスター/ウェイティング・ゲーム
05. ボーイズIIメン/メイク・ラヴ・トゥ・ユー
06. シルヴァーズ/二人のホット・ライン
07. デバージ/ドナは今
08. グラス・ルーツ/恋は二人のハーモニー
09. シャーデー/ラヴ・イズ・ストロンガー・ザン・プライド
10. ザ・スタイル・カウンシル/マイ・エヴァ・チェンジング・ムーズ
11. エルヴィス・コステロ/She
12. スティーヴィー・ワンダー/マイ・シェリー・アモール
13. プレイヤー/ベイビー・カム・バック
14. 10cc/アイム・ノット・イン・ラヴ
15. スティーヴン・ビショップ/オン・アンド・オン
16. ピーター・アレン/フライ・アウェイ
17. シルヴァー/ミュージシャン
18. ダスティ・スプリングフィールド/恋の面影
19. マイケル・ジャクソン/想い出の一日
20. 土岐麻子/ナイト・イン・ニュー・ヨーク(ボーナストラック)

■林哲司INFO

〈ライブ情報〉
稲垣潤一 meets 林哲司 アルバム発売記念 トーク&ライブ
2022年3月30日(水)ビルボードライブ東京
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13297&shop=1

林哲司 公式サイト:http://www.hayashitetsuji.com

■土岐麻子INFO


アルバム『Twilight』
発売中
購入リンク:https://asab.lnk.to/tokiasako202111cd
配信リンク:https://asab.lnk.to/tokiasako_twilight_digi

〈ライブ情報〉
「TOKI ASAKO LIVE 2022 “Morning Twilight” Reprise!」
バンドメンバー:Drums・矢野博康、 Bass・村田シゲ(□□□)、 Keyboard・冨田 謙
スペシャルゲスト:関口シンゴ
2022年3月25日(金)ビルボードライブ横浜(神奈川)
詳細:http://www.billboard-live.com/club/y_index.html

土岐麻子 公式サイト:http://www.tokiasako.com

 
 
 
 

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