ティアーズ・フォー・フィアーズの歩み 80s黄金期と復活劇、カニエも魅了した「疎外感」

 
黄金期の名曲たち、後世に与えた影響

1981年にデビューしたTFFは、キーボーディストにイアン・スタンレー、ドラマーにネオンで僚友だったマニー・エリアスを迎えると、3枚目のシングル「マッド・ワールド」が大ヒット。続いて「チェンジ」「ペイル・シェルター」もヒットし、これらの楽曲を収録した1stアルバム『ザ・ハーティング』は1983年に全英1位を記録した。




しかしローランドとカートはそれだけで満足せず、ネクスト・ステップ=世界での成功を目指した。このためにふたりが不可欠と考えたのは、躍動感やダイナミズムをクールな打ち込みサウンドに持ち込むことだった。そのアイデアは間違っていなかった。スタンリー、エリアス、そしてプロデューサーのクリス・ヒューズと共にスタジオで繰り返された試行錯誤の末に1985年に発表されたアルバム『シャウト』は全英2位を記録するだけでなく、米国では首位に輝いたからだ。また同作からは「シャウト」(英2位、米1位)、「ルール・ザ・ワールド」(英・米1位)、「ヘッド・オーヴァー・ヒールズ」(米3位)と次々ヒット曲が生まれ、TFFはデュラン・デュランやワム!ら第二次ブリティッシュ・インヴェンジョン勢の中でも最大級のバンドとなったのだ。




『シャウト』で空前の成功を収めたローランドとカートだったが、彼らは更なる変化を恐れなかった。他のメンバーと訣別したふたりは、当時全くの無名だったアフリカ系女性シンガー、オリータ・アダムスをはじめ、 ピノ・パラディーノやマヌ・カチェ、そしてフィル・コリンズといった腕利きミュージシャンをゲストに迎えてオーガニックなサウンドの構築へと突き進んだのだ。

1989年に発表されたアルバム『シーズ・オブ・ラヴ』は全英1位、全米8位を記録し、ビートルズからの強い影響を感じさせるタイトル曲は全英5位、全米2位のヒットとなり、TFF健在を印象付けた。しかしこの直後バンドに転機が訪れる。完璧主義者のローランドと私生活を優先したいカートの対立が決定的なものとなり、ワールドツアー終了後にカートが脱退してしまったのだ。



残されたローランドは、TFFをソロ・プロジェクトとして続けることになり、1993年に『ブレイク・イット・ダウン・アゲイン』(英5位、米45位)、1995年に『キングス・オブ・スペイン』(英41位、米79位)をリリースしている。サウンドはより研ぎ澄まされ、アダルトなロックとしては申し分のない出来だったが、以前ほどの成功は収められなかった。当時は表現力よりパッションを重視するグランジ・ロックの全盛期で、TFFの繊細な音楽性は、時流から外れてしまっていたのだ。こうした状況に失望したローランドはTFFを休止してしまう。

しかし本物の音楽は必ず見直されるものだ。グランジ・ブーム終焉後の2001年に公開され、カルト人気を博したティーンムービー『ドニー・ダーコ』の劇中で「マッド・ワールド」「ヘッド・オーヴァー・ヒールズ」が使用されると、TFFの再評価がにわかに高まったのだ。このときすでに友情を復活させていたローランドとカートは、TFFの再始動を決意。15年ぶりにカートが復帰したアルバム『Everybody Loves A Happy Ending』を2004年にリリースすると、かつては嫌がっていたライブツアーも精力的に行なうようになった。2012年にはサマーソニックで27年振りの来日も果たしている。


『ドニー・ダーコ』サントラより「マッド・ワールド」 歌:ゲイリー・ジュールズ、編曲:マイケル・アンドリュース

その後もTFFの評価は高まり続けた。「ルール・ザ・ワールド」は、ロードやウィーザーにカバーされ、『レディ・プレイヤー・ワン』『バンブルビー』といった映画でも使用されるなど、80年代を代表するポップソングとして扱われるようになった。

ヒップホップ・シーンにおけるサンプリング・ネタとしても、TFFの人気が急上昇した。「チェンジ」「アイディアズ・アズ・オピエイツ」「シャウト」「ヘッド・オーヴァー・ヒールズ」「ペイル・シェルター」は、それぞれデヴィッド・ゲッタ「Always」、ドレイク「Lust for Life」、バスタ・ライムズ「I’m Talking to You」、M.O.P.「187」、そしてウィークエンド「Secrets」にサンプリング/引用されている。




こうしたサンプリングの中でも、カニエ・ウエスト「Coldest Winter」は特筆すべきだろう。というのも、母の死を発端とする孤独をテーマにしたコンセプトアルバム『808s & ハートブレイク』のラストを飾るこの曲は事実上「想い出は消え失せて」(原題:Memories Fade)の替え歌なのだから。カニエはTFFのサウンドだけでなく、孤独と疎外感をもサンプリングしたのだ。



 
 
 
 

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