ティアーズ・フォー・フィアーズの歩み 80s黄金期と復活劇、カニエも魅了した「疎外感」

 
「転換点」を示すニューアルバム

『ザ・ティッピング・ポイント』は、こうしたTFFブーム後の初のアルバムとなる。しかしローランドが「このアルバムがうまく行くには、一旦全てにおいて間違わなければならなかった」と語るように、制作には長い試行錯誤期間を要した。

ふたりが最初に行ったのは、多くのベテランバンドが近年行なっているのと同じように、若いヒットソングライターたちと共作を試すことだった。しかしこれは上手くいかず、ジェームズ・ブラントやマイリー・サイラスへの楽曲提供で知られるサシャ・スカーベックとのセッションを除いてボツになったようだ。

そうこうしているうちに2017年、ローランドの当時の妻キャロラインが亡くなり、翌年にはローランドが深刻な健康不安に陥ってしまう。こうした経験を通してローランドは、幼い頃から続くカートとの絆を再確認し、長年のコラボレーター、チャールトン・ペタスとの三人でのレコーディングを再開したという。



Photo by Frank Ockenfels

こうして完成した『ザ・ティッピング・ポイント』の音楽性は、ビートルズに代表される英国クラシック・ロックと、TFFも一翼を担ったニューウェイヴ、アナログな演奏とデジタルのテクノロジーが巧みにミックスさせたフレッシュなロックンロール。

そんなサウンドに乗って歌われる歌詞は、孤独や疎外感を抱えながら育った少年が、大人になって向き合った現実を歌ったものだ。「ブレイク・ザ・マン」では家父長制についての懐疑が歌われ、「プリーズ・ビー・ハッピー」ではローランドがキャロラインの痛ましい死について振り返っている。アルバムのラストを飾るのは、カートがリードヴォーカルをとる 「ステイ」。実はTFFを再び脱退しようと考えていた時期に書かれた曲だそうだが、そんな楽曲の仕上げをローランドとともに行っているわけだから、現在のふたりの関係は少年時代のように良好なのだろう。

なおタイトルの『ザ・ティッピング・ポイント』とは「転換点」を意味する言葉だ。COVID-19や気候変動、そして民主主義の危機など、転換点を迎えた今の世界に向けてTFFが放ったメッセージが若いリスナーの心にどんな種を撒いていくのか、楽しみでならない。






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『ザ・ティッピング・ポイント』
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