米FOXニュース元職員が逮捕、「真の保守」求めロシアと蜜月に

モスクワへの招待は「神の思し召し」

コネチカット州のカトリック教徒の家に生まれたジャック・ハニックは、ハーバード大学で人類学を専攻した。卒業後はドキュメンタリー映画制作者として、アパラチアの生活を真剣に追った作品や、南アフリカの反アパルトヘイト活動を率いたデズモンド・ツツの伝記などをプロデュースした。彼はまた、ニューヨーク・エミー賞の最優秀監督賞を獲得している。

1990年代半ばにハニックはCNBCへ入社し、ビジネスの世界へと足を踏み入れた。当時のCNBCの社長は、大統領選の共和党候補の選挙参謀からメディア王へと転身したロジャー・エイルズだった。CNBCでハニックは、エイルズのトーク番組『ストレート・フォワード・ウィズ・ロジャー・エイルズ』にディレクターとして関わった(豪華な書斎のようなセットをバックに、エイルズがシンディ・ローパーにインタビューする映像が残っている)。ハニックはまた、長寿番組『ハードバール』の前身である『ポリティクス・ウィズ・クリス・マシューズ』も担当した。

ルパート・マードックがエイルズに声をかけて保守系ネットワークのFOXニュースを立ち上げた時、ハニックもまたスタッフ主任としてエイルズをサポートした。FOXニュースに在籍した15年の間にハニックは、日々のニュース番組と並行して、『リアル・レーガン』などの真相を究明するドキュメンタリー番組も手がけた。また、ジェラルド・リベラがホストを務めたシンジケーション番組『ジェラルド・アット・ラージ』のディレクターも担当した。2011年にハニックはFOXニュースを去っている。同局の広報担当に、ハニックが退社した時の状況を尋ねたが、コメントを得られなかった。

2013年初めにハニックは、モスクワへ招かれている。表向きは、マロフェーエフが出資するロシアのインターネット検閲推進団体「セーフ・インターネット・リーグ」主催のカンファレンスに出席し、講演を行なうための訪露だった。しかし訴状によれば、令状に基づく捜査の過程で発見されたハニック自身による「未公開メモ」には、講演は口実でロシアには商談のために呼ばれた旨が記載されていたという。

あるロシアのメディアとのインタビューでハニックは、初めてモスクワへ招待された時の電話が「唐突にかかってきた」と振り返っている。当初は不審に思い、「ロシアへ行くことなど全く考えていなかった」という。ところが、新たな保守系メディアの立ち上げについて、フレンドリーだが見知らぬ人々に向かって無意識のうちに熱く語っている自分に気づいた。彼は「神の思し召し」を感じたという。

間もなくハニックは、頻繁にモスクワを訪れるようになる。訴状によれば、マロフェーエフと共に「ツァリグラートTV」の構想を練っていたという。しかし新たなネットワークの立ち上げ前からハニックは、ロシアの公の前で自分自身を主張し始めた。プーチン政権は当時、言論の自由を厳しく統制していた。モスクワの教会で政府を批判するコンサートを開いたとして、当局はバンドのプッシー・ライオットを勾留した。またロシア議会は、「宗教心を損ねる」行為に対して最高懲役3年を科す法律を制定した。さらに、「非伝統的な性的関係を宣伝する行為」を禁じる法案を成立させ、LGBTQ平等を訴える活動を実質的に違法とした。

2013年6月、ロシア下院とマロフェーエフの宗教団体が共同で開催した『伝統的価値観とヨーロッパの未来』と題したカンファレンスで、ハニックはロシア国民を称える発言をした。彼は「伝統的価値観のために決起するなら、正にこの場所が相応しい。神がこの国に役目を与えたのだ」と述べた。

Translated by Smokva Tokyo

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