米FOXニュース元職員が逮捕、「真の保守」求めロシアと蜜月に

東方正教会の影響

ハニックは、マロフェーエフの世界観に魅了された。マロフェーエフは、ロシアが行き過ぎたリベラル派の防波堤となるべきだと主張した。2014年、彼はスレート誌のインタビューで「ロナルド・レーガン時代には、西側のキリスト教徒が共産主義の悪に対抗する手助けをしてくれた。今度は我々が、欧米の全体主義に苦しめられているキリスト教徒たちへ恩返しをしなければならない」と述べている。「いわゆるリベラル主義、寛容、自由といった言葉の裏には、全体主義が流れている」とマロフェーエフは主張した。

ハニックはロシアの記者に対して、米国における政教分離を「深刻な問題」だと述べた。特に、宗教的な問題を社会から締め出すような全体的なモラルの低下を非難した。一方で、東方正教会がロシアの近代政治に与える影響と、問題に「正面から取り組む」能力を称賛した。ハニックはさらに、「東方正教会は、この1000年間変わっていない」とも述べた。初めは変わらないことが欠点のように思えたが、後に考えを改めたという。「不変は力だと理解した。ロシアがモラル的価値を維持する上で、世界をリードする重要な位置を占める原動力になっている」

意図せずしてハニックは、激しく危険な地政学的潮流の真上に立っていた。ロシア政府は、ソ連時代に禁じられた東方正教会への回帰を推進し、ロシア版のバイブルベルトを作り上げることで政治力の強化を試みた。同時にプーチン政権は、西側の右派保守系ポピュリストとの関係を深めていった。宗教、銃、性的マイノリティといった問題を抱える米国の保守派を、文化戦争において価値観を共有する同胞と見たのだ(ロシア人を全米ライフル協会へ潜入させたことでも悪名高いが、同時に米国の著名な宗教保守派にも接近している)。

マロフェーエフとハニックは、2015年に「ツァリグラートTV」を立ち上げた。「あらゆる面で、ツァリグラートはFOXニュースと共通点がある」とマロフェーエフはフィナンシャル・タイムズ紙に語っている。「伝統的価値観を重んじ、主張の場を必要としている人は多いはずだ、という考えからスタートした」と彼は言う。自分たちのネットワークと比較すると、ロシアの国営放送など大人しく見えるはずだ、とマロフェーエフは主張する。「常に東方正教会に忠実で、愛国心を抱き、帝国主義を貫いてきた。国営放送とは違う」

しかしツァリグラートTVは外国人を嫌い、反ユダヤ主義の立場を取った。編集長のアレクサンドル・ドゥーギンは「プーチンのラスプーチン」と呼ばれた髭を蓄えた超国家主義者で、後に米国の制裁対象となった。さらにネットワークの記者らは、移民や西側の裕福な投資家らへの暴言を繰り返し、世界支配を企んでいるとしてジョージ・ソロスやロスチャイルド家を非難したとされている。ハニックによると、番組は大当たりしたという。2015年に彼は、「(ツァリグラートTVの)夜のニュース番組が、ロシア国内の8つのタイムゾーンにまたがる6500万世帯で視聴されている」と豪語した。

「ハニックがネットワークのリーダー的役割を担っていた」と訴状では指摘されている。さらに、やり取りされたメールの中で彼は「取締役会長」「ジェネラルプロデューサー」「ジェネラルアドバイザー」など様々な肩書きで呼ばれていた。また訴状によると、ハニックに対する報酬は「マロフェーエフによって監督されていた」という。

ツァリグラートTVが本格的に始動した後も、ハニックはマロフェーエフの資金で、ギリシャやブルガリアにも同様のネット局を立ち上げるべく動いていた、と訴状は指摘する。ハニックは仲介者を利用して、オリガルヒからのお金の流れを曖昧にしたとされる。「ハニックは、個人的にマロフェーエフのために動いていた」と訴状では述べられている。

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE