中島みゆき「はじめまして」で終わったラスト・ツアー、瀬尾一三と振り返る

慕情 / 中島みゆき

田家:この拍手で普通はコンサートが終わるわけですよね。

瀬尾:1つのコンサートだったらこれで終わってもいいかなって思うぐらいですよね。クライマックスですから。

田家:今回ご紹介するときにこの「慕情」と「誕生」をこのまま続けて、拍手から次に行って「さあどうだ!」という形でまるごとお聴きいただこうと思いながら、分けてしまいました(笑)。

瀬尾:いやいや、本当はここにドキュメントだけにしか入っていないMCがあります。それはドキュメントを観ていただけると分かると思います。

田家:これは2017年のアルバム『相聞』の中の曲でした。

瀬尾:『やすらぎの郷』の主題歌ということで。

田家:アルバムの中でお聴きになったときと、今ラスト・ツアーでこういうふうに歌われるのとは印象は違いますか?

瀬尾:歌の感じがちょっと違いますね。テーマをとっていたときよりか、もっとソフトというか、もっとやさしいというか、ちょっと慈愛に満ちている感じがします。こういう若くはない人のラブソングってすごいですよね。青春のラブソングっていうのもそれはとても必要なものですけども、人生半ば過ぎて晩年になってからのラブソングもあっていいと思うんですよ。歳を重ねたらラブソングなんか歌えないとかって思ってらっしゃるけども、別に青い時代だけがラブソングの特権ではないので、愛にもいろいろな種類があるので男女の愛だって経験を重ねてから歌う。中島さんはそれを歌えるような世代になった代表じゃないですか。だから、とてもいい歌だと思います。

田家:ステージに立っているアーティストと客席で聴いているお客さんの間にある愛情も年々深まってくるわけですね。そういうキャリアがあるアーティストで、ずっと聴いてきたお客さんだからこそ分かち合えるものがあります。このラスト・ツアーは2020年2月26日大阪フェスティバルホールで終わったわけですもんね。

瀬尾:そうですね。残念なことに。

田家:想定してなかった終わり方ですもんね。あらためてあの日のことを思い出していただけると、と思うんですけども、特典映像にはそのときの様子が記録されておりました。マネージャーの鈴木康司さんが携帯を手にして楽屋に歩いて来て。

瀬尾:舞台監督と「えー!」とか言いながら、「ダメだってよ」って話してましたね。

田家:「要請が出ちゃったよ、しょうがねーなこれは」って話が残っておりますけど。瀬尾さんはそのときどう思われました?

瀬尾:こんな状態になるとはまだ思ってなかったので、コロナ自体が未知なものだったし、初めてでどういうことになるのかも分からなくて。ただ、感染力が強いものなのだと国から要請が出るんだったら従うしかないというのはありました。どこかで何ヶ月か後にはできるだろうと思っていたので、延期した形で8月頃からいろいろ組んでいたんですけども、結局こういう状態になって何年も続くことになった。そのときには、ちょっと延期になるなっていう感じぐらいだったんです。

田家:この特典映像には最終日になってしまった大阪フェスティバルホールでのみゆきさんのMCが収められておりまして、「私が心配なのは心やさしき人たちが人に譲りすぎて倒れてしまうこと、自分のことを大切にしてください。お元気でお会いできることを。本日はおっかなびっくりおいでくださいましてありがとうございました」。

瀬尾:そのおっかなびっくりというのはコロナのことで、コンサートがおっかなびっくりじゃないですよ(笑)。おっかなびっくりな人もいますけども、初中島を観て(笑)。あれはあくまでコロナのことに関して言っているだけです。

田家:ですよね。でも心やさしき人たちが人に譲りすぎて倒れてしまうことが心配だ。これがみゆきさんですね。

瀬尾:あの人のすべての心情だと思います、いつものMCじゃないわけですよ。次のコンサートが続けられないという、みんなキュンと来ますよね。

田家:そのMCの後に歌われたのが18曲目「誕生」。

Rolling Stone Japan 編集部

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