中島みゆき「はじめまして」で終わったラスト・ツアー、瀬尾一三と振り返る

人生の素人(しろうと) / 中島みゆき
土用波 / 中島みゆき

田家:これだけの実績がある人、これだけのキャリアのアーティストが「人生の素人(しろうと)」と言い〈昔の歌を聴きたくない〉と歌うという。

瀬尾:もう本当にそんな感じですよね。でもこれがやっぱり中島さんなんでしょうね。

田家:大体最後と名前のつくコンサート、ツアーというのは1つのパターンみたいなものがあって、さようなら私を忘れないで、みなさん元気で。

瀬尾:うん、なんかお通夜みたいになりますよね。

田家:「ありがとう!」みたいな。

瀬尾:それをまず避けたかったんでしょうね。中島さんの柄じゃないですね、そういうのは。

田家:昔の歌を聴きたくないというのは、過去に対してどこかで距離を置いていたり、決別しながら生きてきた人というふうに思いました。

瀬尾:自分を俯瞰できるというか、世阿弥の言っている“離見の見”という外から見る、演じている自分とそれを見ている自分をちゃんとしないといい演者にはなれない。いいパフォーマーになれないということを何回も言ってるんですが、それができる人なんでしょうね。

田家:アーティスト・中島みゆきという存在を、いろいろな形でいろいろなところから光を当てて、自分で確認をしたり思い直したりしながら過去を引きずらずに生きてきた。

瀬尾:本当に潔くね。でも、僕はすごく人間らしいと思いますよ。だって過去にしがみつく人生もあるじゃないですか。でも自分の成長か後退か分からないけど、一応歳を重ねていく。歳を重ねた通りに素直に生きていると思いますね。作品もそういうふうになっているし、常に新しいものを作るじゃないですか。自分の年齢、自分の今まで経験したことを素直に出しているので発信する人としてはものすごく自然な生き方をしていると思いますよ。無理にあのときにあのままやらなきゃダメってことで生きてはいないので。

田家:どんな人にも常に終わりと始まりが同居していて、そうやって時間というのは重なっていくんだという3曲でもあるんでしょうしね。でも、今おっしゃったとても人間的なセットリストのラスト・ツアーという感じですね。さて、このアンコールメドレーの3曲目、ダメ押しのような曲をお聴きいただきます。「はじめまして」。

Rolling Stone Japan 編集部

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