中島みゆき「はじめまして」で終わったラスト・ツアー、瀬尾一三と振り返る

誕生 / 中島みゆき

田家:2020年2月26日中島みゆきさんのラスト・ツアー、8回しか歌われなかった「誕生」です。

瀬尾:そう言ったら身も蓋もないですが、そうです(笑)。

田家:この重みすごいですねー。

瀬尾:ほんとですよね。

田家:「誕生」は2007年のツアー「歌旅」にも収められておりましたけども。

瀬尾:そうですね。「歌旅」で真ん中ぐらいに歌っていますね。

田家:全然重みが違いますね。

瀬尾:まあ、本人の想いですね。これが最後だという想いと「慕情」のときも言いましたけど、すごくやさしい。言葉が突き刺さるんじゃなくて、染みてくるんですよね。じわーっと。彼女の言葉って矢のように突き刺さることもあるんですけど、これはすごい滋養のあるスープを飲んだみたいに体の中から温かくなる感覚がします。

田家:これは今までとテンポが違うとか、そういう変化は?

瀬尾:全部一緒です。でも、偉そうなことを言ってしまえば、そこは彼女の歌に対するいい歳の重ね方をしていることじゃないですかね。彼女の中でも七転八倒もいろいろあると思いますけれども、デビューの頃からの中島さんからすると、絶対に想像できなかったと思うんです。それは20代で、これは60代ですからね(笑)。でも、やっぱり60代の人に20代の歌い方をしてくれというのは無理な話だし、これは60代に作った曲で60代で歌っているので、レコーディングのときよりかは「結果オーライ」で歌った最後の「誕生」に関しては本当に心の奥が温かくなる感じですね。

田家:オリジナルは1992年のアルバムですね。

瀬尾:うん、『EAST ASIA』ですよね。そう言えばすごいんですね。「糸」も入ってますね。全然忘れてた(笑)。

田家:瀬尾さんに思い出させてるツアーであり、そういう曲だったということにもなります。本編は「誕生」で終わりまして、アンコールになりました。本編が「誕生」で終わるコンサートはもちろん初めてでしたもんね。

瀬尾:そうですね。初めてですね。

田家:ああいう終わり方をして、アンコールはどうするんだろうと思いました。

瀬尾:ほんとですよね(笑)。みんなあれで終わって、彼女が中央、上手下手とお辞儀をして去ったら、みんなある意味「はあ……!」という感じで、このまま余韻に浸っていたいなと思うじゃないですか。それなのにアンコールはしましたね(笑)。

田家:さっきお聴きいただいたエンディング演奏と拍手がずっと続いているのは、みゆきさんが3ヶ所でお辞儀をして帰るその時間があの長さだったからですね。

瀬尾:それもちゃんと計算して書いているので、大体このぐらいだなと思いながら。

田家:このぐらいの速度で歩いて下手に行くなとか。

瀬尾:で、終わりのところでふっと降りて来るようにとか、それは舞台監督との話でやっていますけども。ここで終わっても満足だったと思うんですけれども、それをあの人はへそ曲がりなので、「はいよー!」って感じでぶちかますようにまたアンコールで闘ってきましたね。

田家:そんなふうにみんなが感動して、しみじみして言葉がないような形で終わるのはいやよ! みたいな。しかもこのアンコールの3曲が「終わりと始まり」というテーマがちゃんと計算されている曲だったという。それが見事なアンコールだなと思いました。3曲あったんですけども、まずは2曲をお聴きいただきます。「人生の素人(しろうと)」。そして「土用波」。

Rolling Stone Japan 編集部

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