フォンテインズD.C.が語る新たなグルーヴ、母国との繋がり、悪質なナショナリズム

 
アイデンティティを見つめ直すために

―「In ár gCroíthe go deo」は、コベントリーのアイルランド系女性の親族が争いの末、彼女の墓標に刻んだケルト語のフレーズにちなんでいます。

グリアン:今はナショナリズムと大衆主義、そして愛国心を讃えるような風潮が世界中で見られる。船に見立てた国家が何か重大な出来事に見舞われたとして、集合的民族意識の片隅に生まれた羞恥心はその船を転覆させる。船尾が沈んでいくにつれて上昇する船頭、それはプライドの象徴だ。最近は歴史上の人物の像が破壊される事件がよく起きてるけど、言論の自由と国民意識が脅かされていると感じる人々が蜂起するケースは、今後さらに増えるだろうね。

そういうムードの高まりを、俺は実際に肌で感じてる。ロンドンに住むイングランド人の間で、アイルランドの人々がどう扱われてるかっていうのはあまり語られていない。もっと酷い扱いを受けている人々がいるからだ。イングランドの人間は何をやっても許されると思ってるような節があるんだよ。

長い間、アイルランドの人々は苦々しい思いをしていた。80年代や90年代とは違うっていうのはレトリックだよ。確かにそうだけど、そういう風潮は今も残っていて、アイルランドの人々は前に進むためにずっと耐え忍んでるんだ。

カルロス:悪質なナショナリズムの高まりはイングランドでも起きてるけど、歴史を正確に伝えていないことが根本的な原因だと思う。ハッとさせられる経験をしたことがあるんだ。追悼の日曜日に行われたディナーパーティーでのことなんだけど、誰かがイギリス軍の戦死者たちに乾杯しようとしたんだ。彼は俺の目の前でグラスを掲げたけど、俺はアイルランドで起きた悲惨な出来事に加担した人々を讃えることなんてできなかった。彼に悪気はなかったんだろうけど、それにどういう意味があるのかを理解していないんだろうと思った。正しい知識を持たない人々がそういう言葉を軽々しく口にする風潮って、すごく危険なことだよ。あの曲で描かれてるのはほんの2年前の出来事だけど、敵の民族の言語だと解釈されてたんだ。狂ってるとしか言いようがないよ。



―あなた方は多作で、2019年からの3年間でアルバムを3枚完成させています。

グリアン:いつまでも新人扱いされたくなかったから、『A Hero’s Death』を早い段階で完成させられたのはよかったと思ってる。アルバムを3枚出せば、さすがにもう新人じゃないだろうからね。でも実際には、単に必要だから曲を書いてるだけなんだよ。1stアルバムではダブリンについて言いたいことをぶちまけ、セカンドでは殺人的なツアー日程の中で平穏を見出そうと必死だった。今作の目的は、ロンドンという街の視点でアイルランド人としてのアイデンティティを見つめ直すことだった。それぞれ異なるチャプターの産物なんだよ。

今作の曲は全部去年に書いたものだけど、それは俺たちにそうすべき理由があったってことを意味してる。今はただ、自分が『Skinty Fia』を作ったバンドの一部だっていう事実を噛み締めていたい。このアルバムをすごく誇りに思ってるし、マジでこのバンドは最高にクールだからさ。いちいち理屈をつけたりしないで、ただこの状況を楽しみたいんだ。

―今のあなたは以前よりも落ち着いていると?

グリアン:ステージに立っていられる時間も長くなったしね。今は前よりも曲に没入できるようになったけど、以前はアドレナリンが出過ぎて自分をコントロールできなくて、危険なレベルにまでなりつつあった。アムステルダムでのショーでは、プラスチックのナイフで顔の血管を切ってしまった。当時の俺は不眠症になっていて、ツアー中はものすごく気が滅入ってたこともあって、パンにバターを塗る時に使うようなナイフを持ち出してそんな真似をしたんだ。傷はかなり深くて、最初の4曲の間は血を拭うだけで精一杯だった。もうあんな真似はしないよ、今はオーディエンスとの繋がりをもっと感じられるようになったしね。客を敵視して、喧嘩を売ってた以前の俺とは違うんだ。

From Rolling Stone UK




フォンテインズD.C.
『Skinty Fia』
2022年4月22日リリース


FUJI ROCK FESTIVAL ’22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟・湯沢 苗場スキー場
※フォンテインズD.C.は7月31日(日)に出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE