「ロザリアは未来だ」とファレルが断言する理由 革新的ポップスターが併せ持つ二面性

ロザリア

 
「2022年最重要作品」との呼び声が高い、ロザリアの最新アルバム『MOTOMAMI』。今最も注目されるスペイン出身のポップ・アイコンについて、ライター・辰巳JUNKが解説する。


実験サウンドのポップスター

 「ロザリアは未来だ」――ファレル・ウィリアムス(Vogue)

2022年、もっとも勢いのあるアーティストの一人は、間違いなくロザリアだ。新作『MOTOMAMI』は、リリースされるやいなや大手レビューサイトMetacriticにて「2022年最高の高評価アルバム」に君臨。セールス面も絶好調で、Spotifyではスペイン語女性アーティストとして史上最高記録デビューを達成している。日本でも「HENTAI」「CHICKEN TERIYAKI」といった日本語タイトル曲が話題となったが、時期とサウンド、どちらをとっても、今がロザリア入門の絶好のタイミングと言えるだろう。



革新的な実験派ソングライターとゴージャスなメガポップスターという二面性を持つロザリアは、少し特異な位置にある。まず『MOTOMAMI』にも登場するジェイムス・ブレイクやフランク・オーシャン、そして盟友アルカといった、最前線プロデューサーたちと密な創作仲間だ。同時に、J・バルヴィン等のラテンスターはもちろん、ザ・ウィークエンドやトラヴィス・スコット、ビリー・アイリッシュ、ハリー・スタイルズといったメガスターともコラボを果たしているし(※)、BLACKPINKメンバー、LISAがダンスカバーを披露したこともある。リアーナのランジェリーブランドSAVAGExFENTYのショーに出演し、Vogueの表紙やNike広告を飾るなど、きらびやかなファッション界からのオファーも絶えない。

音楽評価の高いメガスターは珍しくない。しかし、ロザリアの場合、国際的にはブレイクスルー期でありながら、米国式ラジオヒットとは相反するような実験サウンドを貫く点で異彩を放っている。

※ハリー・スタイルズ「Adore You」MVでロザリアがナレーションを担当


ジェイムス・ブレイクがボーカルで参加した「DIABLO」


LISAによるダンスカバー、曲は後述の『El Mal Querer』収録「MALAMENTE (Cap.1: Augurio)」


音楽のあり方を変えうる「二面性」

 “私は私と相反して 変身する”――「SAOKO」

振り返ると、ロザリアは頭角をあらわした頃より相反的な二面性が際立っていった。フランク・オーシャンなど、ポピュラー音楽のカバー歌唱をYouTubeに投稿しながら、長い歴史を持つフラメンコの専門教育を受けていたのだ。つまり、デジタルな先進性と歴史的な伝統性、その両方を象徴していた。

1993年バルセロナに生まれたロザリアは、ローティーンの頃フラメンコに魅了され、稽古を始めた。17歳ごろ大物プロデューサーにスカウトもされたというが、ポップ路線を求められたため断り、じっくりと学習に時間をさき、1stアルバム『Los Ángeles』制作に専念したという(2017年リリース)。音楽大学時代の逸話も残されている。フラメンコ公演を行った際、50人の観客のなかには、コロンビアのロックスター、フネアスもいた。ふだんは感情的でない彼は、涙を流しながら熱弁したという。「50年間聴き継がれるであろう最重要アーティストだ。唯一無二の存在……この子は音楽を変えようとしている」


フランク・オーシャン「Thinkin bout you」のカバー動画(2015年投稿)


バルセロナのタブラオ(フラメンコを鑑賞できるレストラン)で即興歌唱を披露するロザリア


フランケンシュタインを恐れない

 “私はヒット曲作りをキャリアのベースにしたことはない ベーシックそのものを形づくったからヒットした”――「BIZCOCHITO」

在学中、ロザリアは「ソウルやブルースといった伝統的音楽をポップにしたビヨンセやリアーナのように、フラメンコも現代大衆化できないか」つねに意識していたという。その野望を成就させたのが、メジャー契約を果たして2018年に放たれた2ndアルバム『El Mal Querer』。フラメンコとエレクトロ、トラップ、現代ラテンサウンドを融合させた同作は、評価と売上を両立するかたちで「ネオ・フラメンコ」ジャンルを世界に知らしめた2010年代重要作だ。

というわけで、ロザリアは、作曲やプロデュース、演奏をこなすインディ系シンガーソングライターとして世に出たアーティストである。「BIZCOCHITO」で強気に宣言されたように、ポップスター的イメージは、音楽業の結果にすぎない。

 「ただ、聴いたことのない何かを聴いてみたい。それをつねに意識してる」――ロザリア(NYタイムズ)

 「ロザリアは、仕切りや境界線をまったく作らないタイプだね。(怪物を創り出してしまった)フランケンシュタイン博士になってしまいかねない曲づくりを恐れない。”気持ちいいなら何でも”という感じ。音楽はそうあるべきだ。偉大な曲はそうやって作られる」――ファレル・ウィリアムス(Vogue)

ロザリアの音楽が革新的な理由は、さまざまなジャンルサウンドを斬新なかたちで合成する作家性だろう。今やジャンルブレンディングなヒット曲は珍しくないが、彼女の場合、「ジャンルを混ぜる」というより「各ジャンルを解体してつなげる」スタイルで、未知なる音をチャートに送り込んでいる。


 
 
 
 

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