「ロザリアは未来だ」とファレルが断言する理由 革新的ポップスターが併せ持つ二面性

 
『MOTOMAMI』のカオスとユーモア

ファレルが言うところのフランケンシュタイン的な曲づくりは、3rd『MOTOMAMI』でも一貫している。しかし、今作の場合、敷居は低くなっているはずだ。単純に、これまでのアルバムよりも伝統的サウンドが減少し、キャッチーになっている。女性のパワフルさ、自然なしなやかさという二面性をコンセプトとした『MOTOMAMI』は、アグレッシブビートと情緒的メロディの二軸を展開させる。噛み砕いて言えば「ノれて踊れる曲」と「浸って泣ける曲」が多いのだ。幼少期の遊び心に戻った「音楽的自叙伝」と語られただけあり、思春期に愛聴したレゲトン、そしてリル・キムやM.I.A.といったラップ、さらにはハイパーポップ、そしてもちろんフラメンコと、幾多ものジャンルサウンドがジェットコースターのように押し寄せていく。

シリアスな過去作から一変、ユーモアにも富んでいる。その筆頭は、海外でも話題を呼んだ「HENTAI」だ。この場合の「HENTAI」は、英語圏における日本アニメ、漫画文化における「誇張された性的作風」を指す。そうした言葉をフランク・オーシャン的メロディに組み込むアイデアは、さまざまなジャンルサウンドが混在するカオスをより豊かにしている(補足すると、一般的レーティング作品よりも明け透けではないHentaiジャンルのほうが面白く官能的、という真面目な考えにも基づいているらしい)。




女性軽視文化との闘い

アルバムタイトルそのものにも日本語の要素がある。造語「MOTOMAMI」における「MOTO」は、アグレッシブな女性性ニュアンスと日本語の「もっと」をかけたダブルミーニングなのだ。バイカーであった母親のような女性像をコンセプトにした同作には、音楽的仕掛けが施されている。

オープニングトラック「SAOKO」は、Wisinとダディー・ヤンキーによる2000sレゲトン「Saoco」における女性バックボーカルをサンプリングしている。つづいて「BIZCOCHITO」では“私は、これからもずっと、あなたのビスコチートにはならない”とラップされるが、これも、女性を甘味に例えてセクシーに誘う「Saoco」のリファレンス。ファンのあいだでは、レゲトンへのリスペクト表明であると同時に、音楽業界の女性軽視文化に従わぬ宣言と解釈されている。

女性バイカーが連なる「SAOKO」ミュージックビデオで強烈に示されるように、ロザリアの一貫した目標は、女性クリエイターの力の発信、そして地位の向上だ。音楽家として評価されるために闘わなければいけなかったビョークを見て育った彼女は、ヴィクトリア・モネやミッシー・エリオットといった女性たちの作曲およびプロデューシングの認知と評価が足りていないと語っている。米国市場においても女性プロデューサーの割合はたった2%というから、道は険しい。ただ、実験的作風を維持しながらメガポップスターとなったロザリアの存在そのものが、女性のクリエイティビティ、その無限の可能性を証明している。






散ることのない永遠

 “さくら さくら ポップスターは決して長続きしない” 
 “永遠に輝くスターではいられない”――「SAKURA」

「CHIKEN TERIYAKI」にてニューヨークの豪遊がラップされるように、『MOTOMAMI』は、故郷から離れ米国を拠点にした時期、ある面では、世界の頂点に立つ寸前のプレッシャーのもと芸術を爆発させたアルバムだ。まさしく絶頂期のにふさわしい内容だが、相反するように、栄華の儚さも歌われている。クロージングトラック「SAKURA」は、日本文化における「儚く散る桜の美しさ」概念とポップスターの短命を被せたアカペラ調だ。見事な儚さだが、ここにも、相反するであろうことが一つある。呼び名が「ポップスター」であろうとなかろうと、ロザリアが音楽シーンに与えた影響は、散ることのない永遠として音楽史に刻まれるのだから。






ロザリア
『MOTOMAMI』
発売中
視聴・購入:https://ROSALIA.lnk.to/MOTOMAMI_ALRS

〈収録曲〉
1. SAOKO / サオコ
2. CANDY / キャンディー
3. LA FAMA feat. The Weeknd / ラ・ファマ feat. ザ・ウィークエンド
4. BULERÍAS / ブレリアス
5. CHICKEN TERIYAKI / チキン・テリヤキ
6. HENTAI / ヘンタイ
7. BIZCOCHITO / ビズコチート
8. G3 N15
9. MOTOMAMI / モトマミ
10. DIABLO / ディアブロ
11. DELIRIO DE GRANDEZA / デリリオ・デ・グランデーサ
12. CUUUUuuuuuute / キューーーーーーーーーート
13. COMO UN G / コモ・ウン・G
14. Abcdefg
15. LA COMBI VERSACE / ラ・コンビ・ヴェルサーチ
16. SAKURA / サクラ

 
 
 
 

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