『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』自身初の傑作アルバム誕生秘話

 
革新的だった「風に吹かれて」

デビュー・アルバムのリリースからわずか1カ月後の4月、ディランはニューヨークのコロムビア・スタジオAに入って、当時は『ボブ・ディランのブルース』と仮称していたこの2ndアルバムの制作を開始した。2日間にわたるセッションで、彼はこのアルバムを自作曲で構成する意図を明らかにし、8曲の新曲と、数曲の伝統的なフォーク・ソング、ハンク・ウィリアムスやロバート・ジョンソンのナンバーを録音した。

次にスタジオに戻ってきたのは7月9日のことで、ここでは緩くてとりとめのない「ボブ・ディランのブルース」、「ダウン・ザ・ハイウェイ」(この曲は唯一、ロトロの旅行をあからさまに歌っている。“あの子は僕のハートを取りあげ、スーツケースに詰め込むと、イタリアまで持って行ってしまったんだ”)、「ワン・モア・チャンス」を録音した。とはいえ、このセッションで最も特質すべきことは、彼が4月にガーズ・フォーク・シティでお披露目していた、古い霊歌「No More Auction Block」(競売はたくさんだ)のメロディをアレンジした「風に吹かれて」と題した曲を録音したことである。



荘厳でシンプルな歌詞、常識的な正義と平等の実現への切実な願いにつながっていく写実的な問いかけの連打は、まさに前例のないものだった。「この曲で問いかけられる質問に答える方法は、まず尋ねてみることだ」とディランはアルバムのライナーノーツを書いたナット・ヘントフに語っている。「でも多くの人は、まず風を見つける必要があるね」

グロスマンはこの曲のデモを演奏し、クライアントのピーター・ポール&マリーに持ち込んだ。その時のことをピーター・ヤローはこう振り返る。「私はすぐにこう言ったんだ。『これこそが聖なる曲だ』。革新だよ。全く驚くべき曲だ」

ピーター・ポール&マリーは、『フリーホイーリン』発売の3週間後に、「風に吹かれて」をシングルとしてリリース、発売1週目で売り上げ30万枚を達成し、ビルボード・チャートで最高位2位を記録している。

Translation by Kuniaki Takahashi

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE