クラッシュシンバルから紐解く緊張と脱力の音楽・ファンク、鳥居真道が徹底考察

せっかくなのでクラッシュ・シンバル以外のシンバルもご紹介しましょう。正面から見て右側にセットされている上下で対になったシンバルのセットがハイハットです。ドラムセットの発明以来、最も叩かれたシンバルだといって過言ではない。ハイハットは、ペダルを踏むことで対になったシンバルを開閉させられるスタンドに取り付けられています。これにより両手に持った2枚のシンバルを打ち鳴らすのを手を使わずに再現できるわけです。足踏み式アルコールポンプスタンドと似たような仕組みだといえます。この開閉できる仕組みのおかげで、ドラムセットのうち、唯一音価をコントロールできるという特権的なポジションがハイハットには与えられています。この仕組みがなければバーナード・パーディの「ダチーチーチー」もこの世に存在しなかったかもしれません。気合でできないこともなさそうですが……。

正面から見て左側に設置されている比較的大きなシンバルがライド・シンバルです。ハイハットのライバル的な存在、桜木に対する流川的な存在だといえます。ライド・シンバルは、小粋なロックンロールタイプの曲だとギター・ソロのときに叩かれる場合が多いように感じます。

以上のハイハット、ライド、クラッシュの3種類がドラム・セットに組み込まれる定番のシンバルです。通常これらのシンバルはライブハウスやリハーサルスタジオに設置されています。他にもスプラッシュシンバルやチャイナシンバルなども有名です。



さて、演奏中にクラッシュ・シンバルの音にびっくりしたと既に述べました。もちろんニルヴァーナの「Smells Like Teen Sprit」のような曲をやっているときに、いくらクラッシュが鳴ろうと驚きはしません。想定していなかった箇所で「ガシャーン!」という音が聞こえてくるとドキッとするのです。カウントを出した後にクラッシュが鳴らすことがたまにあります。練習では鳴らしていなかったのに、本番になって急に鳴らすのでびっくりするというわけです。

そうした場合にドラマーに対して思うのは「ん? 緊張してる?」ということです。なぜそのように感じるのでしょうか。

まず一般的にクラッシュを使用する場面は、次のようなものがあると思います。セクションの変わり目を示す。小節の長さを示す。フレーズにアクセントをつける。シンコペーションを強調する。サウンドを派手にする。

小節の長さを示す例であればシックの「Good Times」がありますし、シンコペーションを強調する例であればグリーン・デイの「Bascket Case」があります。サウンドを派手にする例であればやはり「Smells Like Teen Sprit」を挙げざるをえません。



こうしたクラッシュの使用例はリスナーに対して親切な振る舞いのようにも見えます。バラエティ番組のテロップのように「ここが笑いどころですよ」と示してくれるのと似たような役割があります。説明過多の感も否めない。そのためストイックなミュージシャンはクラッシュを嫌う傾向があるように個人的には感じています。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE