ジョニー・デップも悪友、ポーグスの酔いどれ詩人が歩んだ愛すべき人生

満身創痍でもしぶとく生き続ける姿

アイリッシュ・ミュージックに根差したオリジナル曲を書こうと試行錯誤するなかで、シェインが初めて手応えを感じた曲が「Streams Of Whiskey」(1984年にスティッフからリリースされたポーグスのデビュー・アルバム『Red Roses For Me』に収録)。この曲がキングス・クロスの家で書けたときの喜びを語るシーンは、長年のポーグス・ファンならグッとくるはずだ。歌詞に登場するビーハンとは、ダブリン出身の作家でIRAのメンバーでもあったブレンダン・ビーハン。シェインの無頼なキャラクターにも多大な影響を与えている。



途中で挿入される過去のインタビュー映像で、しらふで演奏したことはあるのか、という質問にシェインは「クラッシュみたいな時代遅れをサポートした時に」と答えている。初期のピストルズやクラッシュに心酔していた分、彼らもただのロックスターに過ぎない、と気付いてからは、誰かを崇拝するのではなく我が道を行こうと心に決めたようだ。そのクラッシュのジョー・ストラマーがシェインの歌詞を絶賛、シェイン脱退後のポーグスに加わってバンドを支えることになるのだから、皮肉な話だが。

ポーグスのサウンドを「メチャクチャな“伝統音楽”さ。ロンドンってのはメチャクチャだからな」と形容、アイルランドよりロンドンについて多く歌っていた、という証言も興味深い。アイルランド本国にとどまっていたら生まれない、移民ならではのバンドであるという意識が彼らには明確にあったのだ。


© The Gift Film Limited 2020

2ndアルバム『Rum Sodomy & The Lash』(85年)について語る場面では、プロデューサーを務めたエルヴィス・コステロの話題も。のちにバンドを去ってコステロと結ばれるベーシストのケイト・オーリアダンと録音中にイチャついていたばかりか、「Rainy Night In Soho」(EP『Poguetry In Motion』に収録)を録った際には完璧と思っていたコルネットのソロを外してオーボエを入れようと言い出したので、コステロをつまみ出してやった、とシェイン(しかしUSミックスにはオーボエの音がしっかり入っている……)。その話を聞いて何とも形容しがたい笑みを浮かべるボビー・ギレスピー(プライマル・スクリーム)がいい味を出している。

巨額の富と名声をもたらした屈指の名曲、「Fairytale Of New York」(87年)についてシェインは、ポーグスにとっての「ボヘミアン・ラプソディ」とコメント、共演したカースティ・マッコールを絶賛しながら、「好きな曲じゃない」とも。「Fairytale Of New York」(邦題:ニューヨークの夢)が売れすぎてから息子はおかしくなった、とシェインの父は証言しているが、この曲のヒット以降、バンドではなく自身に視線が集中、その後の過密スケジュールが組まれたツアーで疲弊し切ったことが、今もネガティブな記憶としてシェインの心の中にあるようだ。88年のツアーから戻った兄を見て、妹は「私が知ってたシェインはいなくなってた」とコメントしている。



音楽に捧げてきた情熱が減退、ドラッグと酒にますます溺れるようになったシェインは、遂にヘロインにも手を出す。酩酊が過ぎて日本のファンを心配させた1991年の来日時に何が起きていたのか……シェインがポーグスを去ることになったいきさつが具体的に明かされているのも、本作の見どころのひとつだ。

ポーグス脱退後の活動と、バンドに復帰した辺りの話は割と薄め。その分、終盤は今のシェインを支えるパートナー、ヴィクトリア・M・クラーク(2018年にシェインと結婚)との会話が強く印象に残る。シェインが自己破壊的と思われるのは誤解で、酒を飲まないと生き続けられないから飲んでいる、とヴィクトリア。U2のボノやジョニー・デップ、シネイド・オコナー、ボビー・ギレスピーらが出演して祝ったシェイン60歳記念コンサートには、主役も車椅子で登場。歌うのもやっとの体調だが、ニック・ケイヴとデュエットする「Summer In Siam」を、しかと見届けて欲しい。70年代から妹に「兄が死んでしまう」と心配され続けてきた男が、満身創痍でもしぶとく生き続けている、そのせつなくも美しい姿を。


© The Gift Film Limited 2020




『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』
6月3日(金)、渋谷CINE QUINTOほか全国順次公開
製作:ジョニー・デップ
監督:ジュリアン・テンプル
出演:シェイン・マガウアン、ジョニー・デップ、ボビー・ギレスピー、モーリス・マガウアン、シヴォーン・マガウアン、ヴィクトリア・メアリー・クラーク、ジェリー・アダムズ、ボノ他
2020年/アメリカ・イギリス・アイルランド/英語/130分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch 英題:Crock of Gold: A Few Rounds with Shane MacGowan/日本語字幕:髙内朝子/字幕監修:ピーター・バラカン R18
© The Gift Film Limited 2020
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/shane/

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