ポップスターたちが隠したい過去 ロシア新興財閥との蜜月

まるでロックフェス、アブラモヴィッチ氏の私的パーティ

ウクライナでの戦争が始まるずっと以前から、アブラモヴィッチ氏は大金をはたいてポップスターを招き、自分が主宰するイベントでフルセットのコンサートを開いた。2009年にはエイミー・ワインハウスに200万ドルを払い、当時付き合っていたダーシャ・ジューコワ氏が所有するモスクワのアートギャラリーGarageで、至近距離でのショウを開いたと言われている(当然ながらワインハウスはステージに立てるような状態ではなく、数時間遅れで始まったショウは散々たる内容だった)。ステージの頭上にはその後の富を象徴するかのように、ワインハウスの名前を金文字で綴った看板が掲げられていた。

翌年には、9000万ドルを投入してカリブ海に浮かぶフランス領サン・バルテルミー島に広大なヴィラリゾートを建設。やがて豪華なカウントダウンパーティを開くようになった。時には花火や巨大ヨット「エクリプス号」(複数のプールやヘリポートを併設し、潜水艦も備えられていた)の見学ツアーも盛り込まれた。2000年代後半からは、6桁は下らない金額でキングス・オブ・レオンやレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ザ・キラーズを招いた(2017年のカウントダウンパーティでは、ポール・マッカートニーもザ・キラーズに加わって「ヘルター・スケルター」を共演した)。2010年の大晦日イベントにブラック・アイド・ピーズをオファーした際には、ゴージャスな白い砂浜で有名なグヴェルヌール・ビーチ全体を貸し切った。チリ・ペッパーズ出演した2012年の年末パーティでは「アイランド・シック」というドレスコードが課され、招待客にはキャビアのブリヌイにウォッカとレモン風味のソースをかけたパンケーキがふるまわれた。

亡くなる数カ月前、晩年のプリンスがパフォーマンスしたステージのひとつが、2015年の大晦日にアブラモヴィッチ氏の所有地で行われたパーティだった。噂では、プリンスとサード・アイ・ガールは約100万ドルで、ヒット曲満載のステージを披露したという。観客の中にはレオナルド・ディカプリトとジョージ・ルーカスもいた(過去のパーティにはデヴィッド・ゲフィン氏やハーヴェイ・ワインスタイン氏、エレン・デジュネレスが出席していたと言われる)。地元のシェフ、パトリス・アブデラマンさんは自ら運営する会社Chef D’or St. Barthで高級イベントを数々手がけてきたが、プリンスが持っていた「ぴかぴかの銀のステッキ」が今でも目に浮かぶという(当時プリンスは腰の手術を受けたばかりだった)。「アブラモヴィッチ氏は素晴らしいパーティを開きます」とアブデラマンさん。「彼はとても太っ腹です」

プーチン大統領の上級顧問の受信メールからハッキングした情報によると、2014年にアブラモヴィッチ氏はモスクワのプライベートコンサートでロビー・ウィリアムズを招いた。ウラジスラフ・スルコフ氏は2020年2月に解雇されるまでプーチン政権の副首相を務め、プーチン大統領の右腕としてウクライナなどの諸問題について助言していた。匿名のハッカーがスルコフ氏の政府専用アカウントをハッキングし、2016年にその内容をネット上に公開したと言われている。

Translated by Akiko Kato

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