フォールズが語る「踊れるロック」の成熟と原点回帰、フジロックとUK最高峰のライブ

 
ポスト・パンデミックを照らすフォールズのライブ

5月のロンドン公演では、先行2曲に並んで前述の「Life Is Yours」と「2001」が、いち早くセットリストに取り入れられていた。その時に新作の曲のパフォーマンスを聴きながら思ったのは、ライブのセットリストの中で、ある種の清涼剤のような役割を果たす楽曲群だということだった。

近年のフォールズのライブを体験したリスナーには改めて言うまでもないが、彼らのライブは現在のUKのロック・バンドの中でも、間違いなく最高峰と言える迫力を持っている。その定評は3rdアルバムの『Holy Fire』(2013年)をリリースする頃から本国を含めて確立してきたものだが、今年の『NME』のインタビューで、スミスは「数年前まで、僕たちはアークティック・モンキーズに負けないようにしようと考えて、実は本当に悩んでいたんだ(筆者訳)」とも明かしている。確かにデビュー時期の近さを思えば、目下のライバルとして想定することは想像通りとも言えるが、いずれにせよ、その競争意識が、現在のフォールズのライブ・アクトとしての実力を育む原動力となったことは疑いようがない。




Photo by Sam Neill

同時に、前作までの曲を演奏するフォールズを観て思ったのは、彼らがブリティッシュ・ロックの最良の後継者の一組であり、想像以上にレッド・ツェッペリンとの共通点が多いということだった。メタル・ミュージックからの影響も色濃いビーヴァンのビッグなドラムス──特にアリーナを爆撃するようなキックはジョン・ボーナムさながらの迫力がある。また、ヤニス・フィリッパケスの高音ボーカルも、若い頃のロバート・プラントの姿をそのまま彷彿とさせる。さらに彼のギリシャ系のルーツを思い起こさせるアラビックなメロディへの指向も、中期以降のツェッペリンに通じるものがある(フィリッパケスの多文化志向は、そのルーツとも深く関係しているのだろう)。また、前作の「Black Bull」のような曲で見せたヘヴィなギター・サウンドへの飽くなき傾倒も、その連想を強める(ただし、フォールズの場合、そうしたサウンドを、EDMまで射程に含んだダンス・ミュージックのコンパクトな構成感の中で表現している点が現代的でもある)。



そして、上述の通り、前作までの曲の演奏では、感情的な極点に向けて爆発的な演奏をする、という意識がライブ全体を貫いていると感じた。だからこそ『Life Is Yours』の曲のパフォーマンスには、それとは異なる感触がある。端的に言えば、より大人で洒脱。ある意味ではリラキシン。だが、かと言って、それが浮いていたというわけでもない。スミスは7月に出演するフジロックのセットリストについて「新曲と他のアルバムからのヘルシーなミックス」になると言及すると同時に、「願わくば、素敵なライティングも」と付け足す。実際、5月のライブは、バック・スクリーンやストロボまで演奏と一体となった総合的な表現に仕上がっていて、その中で新曲もバンドの新しい引き出しとして、しっかり組み込まれていた。フェスティバルのステージで、それがどのように表現されるかは注目すべき機会となるだろう。

ポスト・パンデミックにこそ求められる、癒しの感覚を持ったダンス・アルバムを携えて、フォールズが帰還する。アーティストはよく社会の危機を先回りしてリスナーに伝える“炭坑のカナリア”に喩えられるが、フォールズは、我々に必要な癒しの感覚を、先回り的に音楽で表現しようとしていたのだという言い方もできるだろう(同じ喩えを使うなら、吹雪の中で鳴くウグイスとか?)。

その背景や作品に込められた願いを思えば、彼らの最新のアーティスト写真さながら車でドライブしながらアルバムを聴く時に、あるいは苗場のアリーナで踊りながらバンドのライブを観る時に『人生はあなたのもの』と名付けられた、このアルバムの更なる魅力が、きっと輝くことになるのだろう。パンデミックからの回復の時間は、ダンスの喜びとともに始まっている。

【関連記事】フォールズがUKロック不遇の10年を乗り越え、無敵のアンサンブルで絶頂期を迎えるまで




フォールズ
『Life Is Yours』
発売中
*日本盤ボーナス・トラック3曲収録
配信:https://SonyMusicJapan.lnk.to/lifeisyours
購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/FOALS_liy

FUJI ROCK FESTIVAL ’22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日) 新潟・苗場スキー場
※フォールズは30日(土)出演
詳細:https://www.fujirockfestival.com/

フォールズ日本公式:https://www.sonymusic.co.jp/artist/foals/

 
 
 
 

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