SMエンターテインメントの敏腕プロデューサー、KENZIEが明かすK-POPサウンドの秘密

BoAの初ヒット曲「My Name」を手がける

韓国生まれのKENZIE(本名キム・ヨンジュン)は、音楽に囲まれた環境で育った。母親は音大の声楽科出身だ。KENZIEが幼い頃から、家族は彼女の音楽の才能に気づいていた。「自分のなかに強固な音楽のDNAがあることを感じていました」と、彼女は韓国語で話す。「曲を聞けば、すぐにそれをピアノで弾くことができました」。そう言うと、照れくさそうに笑った。「自分のことをこういうふうに話すのは、なんだか恥ずかしいですね。でも、私は簡単に楽器を弾くことができました。楽器の弾き方を“正式に学んだ”とも言えないかもしれません。(中略)そのせいで、自分はみんなと少し違うと感じていました」。その数年後、KENZIEは名門・バークリー音楽大学で学ぶため、親元を離れて渡米した。当時は、音楽業界で働きたいという漠然とした期待を抱いていたが、自分が向いているかどうかはわからずにいた。1990年代前半と言えば、韓国でK-POPが芽生えはじめた時期だ。Seo Taiji & Boys(ソテジワアイドゥル)やH.O.T.といったグループがアーティストとしてようやく世間に認知されはじめていた。「K-POPというよりは、何らかの音楽をプロデュースしたいと思っていました。その結果、自然とK-POPへと導かれていったのだと思います」とKENZIEは話す。「確かに、私はクラシック音楽の影響の大きい環境で育ちました。ピアノなどの楽器も弾いていました。でも、当時聴いていたポップスやエレクトロニックミュージックこそが次世代の音楽の未来を担うものだと感じていました。だからこそ、ポップミュージック全般に強く惹かれたのかもしれません」

母国では、SMが世に送り出すアーティストたちが次々と成功を収めていた。それを知ったKENZIEは、SMにいくつかデモ音源を送った。それから間もなくして、彼女はSMの創設者であるイ・スマン氏と契約を結び、当時はまだ明確なアイデンティティを確立できずにいたK-POP業界でのキャリアをスタートさせた。

その後の10年間、KENZIEはほぼひとりで所属アーティストの楽曲を制作した。2004年にリリースされたBoAの記念すべき初ヒット曲「My Name」はそのひとつだ。



「当時の韓国には、ソングライティングキャンプ(訳注:プロデューサーやそのジャンルの第一人者などをひとつの場所に集めて、ジャンルの垣根を超えて創作活動を行う場)のようなものはまだなくて、プロデューサーやソングライターはトラックからフレーズづくりにいたるまで、すべてをひとりでこなさないといけませんでした。そのため、私たちはいつもゼロからスタートして曲をつくっていたのです」と彼女は話す。「どのレコード会社もデモ音源を集めていました。決まったプロジェクトがあれば、レコード会社は韓国じゅうのプロデューサーに概要書を送付し、デモ音源を受け取っていたのです。当時のプロデューサーは、ゼロから曲をつくって、レコード会社に送っていました」。デモ音源のサウンドは、海の向こうの米国の若者が聴いていたものとさほど変わらなかった。「2000年代前半は、ブリトニー・スピアーズといったアーティストやマックス・マーティンなどのプロデューサーがポップミュージックのサウンドにおいて圧倒的な影響力を持っていました。韓国のプロデューサー全員がこうした音楽を目指していたわけではありませんが、何らかの影響を与えたことは確かです。当時は、世界的なトレンドだったと言えるかもしれません」

デスティニーズ・チャイルドやブリトニー・スピアーズを思わせるポップスとR&BのエネルギッシュなミックスであるBoAの「My Name」には、2000年代前半を象徴するテクスチャーが健在だ。だが、KENZIEの名が初めてクレジットに刻まれたこの曲では、クラシック音楽という彼女のバックグラウンドを想起させるストリングスやギターがドラマチックに重ねられている。その後、徐々にKENZIEの影響力はより顕著なものになっていった。「広い意味では、私の曲に欠かすことができない大切な要素はメロディだと思います」と彼女は言う。「私にとってメロディは、曲の推進力のようなものです」。この頃にリリースされた楽曲——東方神起 & SUPER JUNIORのNo.1ヒット「Show Me Your Love」や少女時代の「Oh!」を含む——は、どれも主にR&Bバラードとバブルガム・ポップの中間に位置し、パワフルなボーカルのハーモニーが中核を担っている。

Translated by Shoko Natori

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