aespa衝撃の初来日、斬新すぎるK-POP4人組が提示した「新たなオルタナティブ」

過剰性とクレイジーな違和感

観客の度肝を抜いたのは、インターバルで放映されたムービーである。SNSによる誹謗中傷とハックされていくプライベートをホラータッチで描いていくさまは非常にサスペンスフルで、aespaというグループが不安や恐怖といったネガティブな面から目をそらさず向き合っていくスタンスが主張される。ただ闇雲に理想論を掲げた空元気な世界を描いていくわけではなく、あくまでリアルと向き合い闇/病みとも対峙するのがaespaなのだ。夢に向かっていくにあたり、どれだけ現実の醜さを暴き描写するか――そのギャップを超えていくためのパワーを、彼女たちはアバターとのLINKを果たしながら獲得していく。

だからこそ、続く曲は「Next Level」でなくてはならない。会場を切り裂くようなレーザーの中、4人が衣装を変え再び姿を現す。どう考えても繋がるはずのないバラバラなパートを「Ooh ooh wee」という陽気なかけ声で強引に接続させてしまう馬力こそがまさに彼女たちの〈Next Level〉なわけだが、軽快なダンスミュージックに聴こえる(がただ軽快なわけではない)次の「YEPPI YEPPI」も複雑なリズムに身体を絡めとられることなく歌いきる。

「終わりが近づいてきて悲しいです」とのMCを経て、「Illusion」と「Savage」へ。このあたりのノイジーで歪んだ音――ピンと張ったスネアを金属で叩き割っていくかのような硬質な響き――に歌いあげるエモーショナルな歌唱とパワフルなラップが乗っていく構成は、もはやタガが外れているとしか思えない過剰性をまとっている。その点、aespaの表現というのは、昨今あらゆるカルチャー領域で起こっているマキシマリズム(過剰主義)の流れにあると言ってよいだろう。しかし、過剰の美学に溺れてしまうことで大仰な世界観に埋没してしまうケースも多い中、このグループは統一感あるダンスと卓越した発声スキルで、常に軸をぶらさず一貫したパフォーマンスを完遂する。特に「Savage」で感じたのは、ラップの抑揚における〈揚〉の部分を常に繋いでいくような特異な発声技術。明らかにトラディショナルなラッパーのそれとは違う鞭打つような力強い発声が、広い会場では音源よりもダイレクトに感じられて痺れる。思い出したのは90年代のビッグビートに見られたようなサウンドフォームで、それらロック×ダンスミュージックにも近い音作りとストロングなボーカルスタイルは確かなリファレンスの一つに感じられた。

素晴らしいステージの最後を飾ったのは「Girls」。「いつだって私たちはTogether」という旨のリリックが歌われるナンバーで、ファンをエンパワーメントしつつ完璧な舞台は幕を閉じた。最後の別れを惜しむべく、4人は繰り返しファンへの感謝を口にし幾度となくギャルピースのサービスも。これもまたY2Kカルチャーの断片だ。日本生まれのギャルピースがリバイバルしK-POPアイドルの中でも流行している昨今、2000年前後の文化に漂っていた空気が生まれ変わり、多少のノスタルジーをまとったままユース層を中心に国境を越えて伝播している状況は非常に興味深い。aespaは、今のY2Kリバイバルの中心にいることを確信させられた瞬間だった。

余談だが、ライブを終え横浜ぴあアリーナMMを出ると、aespaの世界観と類似した近未来の建造物やオブジェが多く目につき不思議な気持ちになった。そう、横浜・桜木町近辺は90年代のポストバブル期に一気に開発が進んだ地域で、当時のSF的世界観を彷彿とさせる建造物が乱立している。実際、SNSにも建造物を映したうえで「aespaみたい!」と書かれた投稿がいくつか見られた。あの頃から20年、Y2Kは新たな解釈を加え現代によみがえっている。恐らくaespaは、過去を元にリメイクしながら未来へと進むそれら編集行為を、最も面白く斬新な方法で行っている。過剰性から成るクレイジーな違和感を次々に喚起しながら、ポップミュージックの新たなオルタナティブを作ること――。妖艶で怪奇な表現こそがaespaの魅力であると改めて感じられた、不思議なライブだった。

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