フジロック総括 「洋楽フェス」復活の熱狂、浮き彫りになった新たな課題

3日目・7月31日(日)

最終日のGREEN STAGEヘッドライナーは、2020年の来日公演が無念の中止となっていたUSのシンガーソングライター、ホールジー。そのため日本でのステージは2016年以来となる。現在も最新ワールドツアーの真っ只中というスケジュールだ。盛大な花火の打ち上げで開演。しかし、バンドの機材が置かれただけの殺風景なステージは、自ずとホールジー自身が激しく動き回り、オーディエンスの視線を集めなければならない構造になっていた。決して声量に物言わせるタイプのシンガーではないけれども、ストーリーテリングとサウンドに込めた激しい感情の蠢きを全身で表現する。余裕や貫禄ではない、トップスターの意地を全力で見せつけるショウだ。キャリアを見渡すヒット曲のつるべ打ちのみならず、リバイバルヒットとなったケイト・ブッシュ「Running Up That Hill」のカバーもステージ一面に揺らめく炎の中で披露した。


ホールジー

相変わらず、これが本当にライブなのかという精微な人力ダンスグルーヴを奏でていたのは、UK出身のトム・ミッシュ。ブラックコンテンポラリーからネオソウル、現代ジャズまでを見渡しながら、過不足なくキャッチーなサウンドをデザインするさまには溜息が漏れる。今やファッション・アイコンとしても注目を集めるUSのジャパニーズ・ブレックファストは、WHITE STAGEで伸び伸びとその独創的なポップ観を描き出す。犬の顔をあしらったトップスを身に纏い、笑顔で巨大な銅鑼を打ち鳴らすさまも楽しそうだ。白昼夢のようなサウンドから軽快なオルタナビートポップ、そして映画『恋する惑星』にフィーチャーされたフェイ・ウォンの「夢中人」(オリジナルはクランベリーズ「Dreams」)もカバーするという、サブカルファンの心をくすぐりまくるステージだ。


トム・ミッシュ

流暢な日本語MCを交えながら、洒脱なファンキーポップとアクロバティックなマスロックを使い分ける台湾のエレファント・ジム。小雨のそぼ降る中、アナドルロックと呼ばれるトルコ由来の力強いサイケロックでオーディエンスの体を揺らしてくれたオランダのアルトゥン・ギュンは、フジロックが得意としてきたワールドワイドなフォーク・パンクやエキゾ・サイケの最新枠といったところだろう。夜のRED MARQUEEに出演したモグワイは、ミニマルなシンセサウンドをフィーチャーしたモードを見せながらも、分厚いギター音響で迫るテーマパーク・アトラクションのようなライブ体験は不変。ラストは「Mogwai Fear Satan」で完璧に締め括った。

全員がTシャツにハーフパンツという、ライブキッズのような装いで登場したUKのブラック・カントリー・ニュー・ロード。しかし、メンバーが交代でリードボーカルを務める新体制、しかもすべて新曲というトライアルを繰り広げたステージは、若者たちがトラッド/フォークの広大な裾野から音楽の神秘的な力を抽出しようとする、このバンドの根源的思想に触れるような大熱演であった。タイラー・ハイド(Ba)は、最後に感極まって涙を見せる。また、凱旋を果たすように2度目のWHITE STAGEへと登場したスーパーオーガニズムは、ニューアルバム収録曲を中心に遊び心たっぷりなポップショウを繰り広げるのだが、不敵にして挑発的、パンキッシュな節回しひとつで温度感を決定してしまうオロノ(Vo)の存在感がやはり痛快だ。最後には、オーディエンスや友人をステージに招き入れて賑々しく「Something for Your M.I.N.D.」を放つ。そしてWHITE STAGEの3日間を締め括ったのはムラ・マサだ。ソウルフルな女性ボーカルを迎えたステージで、いびつさも込みでダンサブルにグルーヴする。スケールアップした華やかさと安定感が見事だった。


ムラ・マサ

「いつものフジロック」。本来であれば、それはオーディエンスの歓声や歌声を取り戻すきっかけでもあったはずだ。筆者もそう願っていた。しかし、急変した日本の状況下で、それを達成するのは難しかった。今日、日本と海外ではライブ開催・運営の基準が大きく異なっている。そもそもアーティストたちは、本分としてライブを盛り上げようとするものだし、歓声や歌声は起こりうるものだ。今回のフジロックにおいても、多くの場面で実際にそうなった。一筋縄ではいかない、新たな課題が浮かび上がったわけだが、今後のライブ/エンタメのために、そして次回以降のフジロック開催のために、我々は対話を続け、この課題と真摯に向き合っていかなければならない。



フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

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