クラプトンとも共演した世界的プログレ奏者、奥本亮が語る「根性の半生」と海外での学び

 
20年ぶりのソロ作で見せたこだわり

奥本は2022年に新たに、往年のプログレ名曲をカバーするプログジェクト(ProgJect)なるオールスター・バンドを結成、彼にとって最後のパーマネント・バンドとして絶賛強化中とのこと。そして7月には20年ぶりとなるソロ・アルバム『ザ・ミス・オブ・ザ・モストロファス~神獣伝説~』をリリースした。

奥本がこれまでリリースしたソロ作品は、ロンドン録音の『Solid Gold』、LA録音の『Makin’ Rock』、シンセのデモンストレーション・アルバム『シンセサイザーのすべて』(3作品ともに1980年)、『Coming Through』(2002年)であり、『ザ・ミス・オブ・ザ・モストロファス~神獣伝説~』(2022年)で5作目となる。驚異的なスロウ・ペースは、スポックでのアクティブな活動を見れば納得がいくものの、奥本自身はこの20年間常に曲を書き続けてきたという。

『ザ・ミス・オブ・ザ・モストロファス』の制作が本格化したのは、2020年11月のライブ・イべントで知り合ったアイ・アム・ザ・マニック・ホエールのシンガー、マイケル・ホワイトマンと意気投合したときからだった。奥本はマイケルに30曲ほどのデモを送り、マイケルからは歌詞が付けられたボーカル入りのトラックが返ってくるというやり取りが続いた。



アルバムのコンセプトは、ずばり“奥本亮によるリョウズ・ビアード(Ryo’s Beard)”を作ること。ロック・バンドのメンバーがソロ・アルバムを作るという感覚ではなく、奥本が中心となり、奥本のプロデュースによるスポックのアルバムを作るというのが目標で、奥本らしいプログ・アルバムを作ること、曲ごとに見合ったメンツで録音すること、ビンテージ楽器を使った生音で録音すること、そしてみんなを「あっ!」と言わせることなどをモットーにしていたというから、なかなかの決意である。こんなところにも大阪のおっさん的な根性が見え隠れしているのが奥本らしい。

アルバムの特徴は、エネルギーにあふれた楽しいプログレ・アルバムということと、驚くほどに豪華で多彩なミュージシャンを起用していること。全6曲(国内盤のみボーナス・トラック2曲を含む全8曲入り)のうち2曲は、スポックの新旧メンバーが揃った、まさにリョウズ・ビアードと呼べるもので、ほかの4曲はスポックとは異なるものにしたかったということで、プログジェクトのジョナサン・ムーヴァー(Dr)やマイケル・サドラー(Vo)、マイク・ケネリー(Gt)を中心に、多くのゲスト・ミュージシャンを迎えて作られている。言うなれば1枚で二度おいしい贅沢なアルバムを作ってしまったわけだ。

参加したミュージシャンは、スポックス・ビアードのアラン・モース(Gt)やデイヴ・メロス(Ba)、テッド・レナード(Vo)という現役のメンバーに加え、旧友ニック・ディヴァージリオ(Dr, Vo)も参加して「ミラー・ミラー」と大作「神獣伝説」の2曲を完成させている。当初はスポックの創設者ニール・モースの参加予定もあったようだが、彼は自分のバンド活動を再開したばかりということもあり実現しなかった。一方、プログジェクトのメンバーと構築した4曲(「ターニング・ポイント」「ザ・ウォッチメーカー」「マキシマム・ヴェロシティ」「クリサリス」)に関しては、スティーヴ・ハケット(ジェネシス)やライル・ワークマン、マーク・ボニーラといったギタリストのほか、ベーシストのダグ・ウィンビッシュ(リヴィング・カラー)、日本が誇るヴァイオリニスト中西俊博、妻の奥本啓子(Cho)に至るまで、曲ごとに最適なメンバーをあてがうという“スティーリー・ダン方式”が採用された。

「俺って、バンドの中でただ座って黙々とキーボードを弾いているようなタイプではなく、立って、両手広げて、ジャンプしているようなキャラが強いタイプなので、スポックの中でもかなり目立つ存在なんだ。だから意外と海外のミュージシャンにも認知されているみたいだった。彼らに参加依頼の連絡をすると、初めての人でも“あー、リョーね、OK!”と皆気さくに応対してくれたんだ」(奥本)

アルバムにとって一番キモとなるボーカルについても、スポックの新旧ボーカリスト(テッド・レナードとニック・ディヴァージリオ)やマイケル・ホワイトマン、マイケル・サドラー、ランディ・マクスタイン(ポーキュパイン・ツリー)、ケヴィン・クローンなどが曲ごとにそれぞれ挑戦している。

「実は『クリサリス』という曲は7人めのボーカリストを採用したんだ(笑)。最初にイメージした人に歌ってもらっても、必ずしもフィットしないことがある。そんなときに第2希望、第3希望と候補者にあたってみるんだけど、この曲だけはなかなか的確な人を見つけられなかった。でも6人目までの人たちも皆素晴らしい著名なミュージシャンばかりだし、彼らは“曲がいいから”と本気で歌ってくれたんだよね。世界中のミュージシャンに共通していることは、お金のことよりもいいアルバムに参加したい、いい曲の中に自分の名前を残したいと思っているんだ。当然のことだよ」(奥本)



奥本のソロ・アルバムだから、奥本自身が全身全霊をかけた渾身の作品作りをするのは当然としても、そこに参加してくれるミュージシャンたちもお仕事として参加するのではなく、いい作品に携わりたいという気持ちがなければ、こんなに素晴らしいアルバムに仕上げることは不可能だったかもしれない。

「だから演奏をお願いするときに、ひとりひとりに異なるアプローチをするんだ。超多忙なスティーヴ・ハケットにはこっちからギターのラインを指定してそのとおりに弾いてもらい、逆にマイク・ケネリーの場合は100%お任せにする。そうすると彼はこっちが欲しい場所以外のパートまで全部埋めて返してくるんだ。マイク・ボニーラも素晴らしい音で埋めてくれたな。だから、テイクを選ぶこっちも苦労したよ。起用したミュージシャンが録音してくれたものを全部使いたいのは山々なんだけど、それをミキサーのリッチ・マウザーに送ったら、彼は勝手に取捨選択して結局半分くらいしか採用してくれなかった。でも彼の判断はいつも正しいので信頼している。彼とはスポックでの付き合いが長いけど、彼は最初に全トラックを聴いて必要なものだけを見極める才能がある。本当はもっといろいろな音をミックスに入れてほしかったんだけどな(苦笑)」(奥本)

 
 
 
 

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