クラプトンとも共演した世界的プログレ奏者、奥本亮が語る「根性の半生」と海外での学び

 
渡米して40年、今も心は「大阪のおっさん」

アルバムがリリースされて1カ月が経ち、早くも世界中から賛辞の声が続々届いているという。彼にとってもっとも嬉しかった言葉というのが「まるでバンドのアルバムみたいに楽曲としてまとまっている」ということだった。つまり、ソロ・アルバムだから「俺が、俺が」と前面に出て来てむやみにキーボード・ソロが長かったりするわけではなく、聴かせたい楽器やソロ・パートなどが曲中の理想的な場所に置かれていて、純粋なプログレッシブ・ロックのアルバムとして聴きやすかったということ。これは奥本にとって、プロデューサー冥利に尽きる、この上ない称賛の言葉だったという。

またトーマス・エワーハードによるジャケットのアートワークもすこぶる評判がいい。ジャケットの怪獣はまさにゴジラをほうふつとさせるが、奥本によれば海外における日本のイメージはゴジラかトヨタか、ラーメンかというくらい強烈なのだそう。トーマスは奥本が渡した10数枚怪獣の写真の中から、ゴジラ映画に使われた2枚の写真を元に今回の怪獣をイメージしたという。アートワークと音が完璧にマッチしたという面でも、このアルバムの完成度の高さが伝わってくる。

「タイトル曲は偶然にもコロナや戦争など身近に感じられるようなことが題材となっているけど、実は“人間の悪い部分”の象徴があの怪獣となって現れたんだ。自分たちの心が生みだした巨大な悪(怪獣)がまさに地球を滅ぼそうとしていて、それをいかにして倒すべきか考えた結果、皆で清らかな心を持って歌を歌おうということになった。そうして人々に平和が訪れるという意味なんだ。単純にジャケットだけ見て怪獣の物語だと思いこんでいる人たちもいるみたいだけど(爆)」(奥本)



音楽には正しい聴き方というものはないけれど、プログレに関して言えば、ある程度構えて聴かないといけないという先入観が存在する。でもこのアルバムは、親しみのあるメロディーを軸に、予定調和的な展開を含めて聴いていて楽しい、なぜかエネルギーがもらえる元気の出るアルバムだという声が多いという。実際、楽曲ごとのアレンジの完成度が素晴らしく、他の著名バンドの作品と寸分変わらぬレベルの高さが伺え、プログレ界全体から見ても、今年のベスト・アルバムになると言っても過言ではないだろう。

「アルバムや曲は自分の子供と同じ。子供を育てるにはいろいろな人の助けが必要だけど、いろいろなカラーに染まりながら、いろいろな勉強をして大人になっていく過程は、曲を仕上げるのとまったく同じ。曲は生まれてから、皆で育てあげないと完成されたものにならないからね」(奥本)


Photo by Alex Solca

奥本が渡米して40年以上が経ち、心底アメリカ人になっているかと思いきや、いまも下駄を履いて街を闊歩し、日々食べるものはハンバーガーではなくラーメンか蕎麦で、買い物に行けば必ず値切るし、もちろん普段は大阪弁でしゃべるという、純和風の生活をしていると聞く。車の中では基本クラシック音楽を聴くけど、ときおり松山千春とユーミン(もちろん70年代の曲限定!)を聴いているという。欧米化してしまった日本人よりも日本人らしく生きているのが奥本なのかもしれない。

「アメリカに渡ったときは、まったく英語ができなかった。言葉が通じなかったから差別的な扱いを受けることもあったけど、アメリカで生きていくということは、それらすべてを乗り越えなくてはならないということだった。だから辛いことも嬉しいことも全部ひっくるめて“苦労した”とは全然思っていない。いまはプログジェクトが楽しいので、このバンドで日本を含む世界中をツアーしてまわりたいと思っているし、スポックはいま作曲中で、来年秋のツアーに向けてアルバムも出したいと思っている。とにかくこれまでアメリカで過ごしてきたすべてが勉強になったし、いまだから言えるようなアクシデントやハプニングなど、面白いことをたくさん経験した。思い出せることを全部書き留めたら、一冊の本になるかもしれないな(笑)」(奥本)

奥本と話しているとき、彼の口調は穏やかながら、ずっと強い意志のようなものを感じることができた。これからも大阪のおっさんパワー全開の活躍を期待したい。




奥本亮
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