88risingがフェスを通して伝えるカルチャーの姿とは? 『HEAD IN THE CLOUDS』レポ


●ヒップホップ、R&B、次のトレンドは?


TERIYAKI BOYZⓇやリッチ・ブライアンやJoji、NIKIなど、88risingの音楽のベースにはヒップホップそしてR&Bがある。今回のフェスでも良質のアーティストが沢山登場していた。1Nonlyは、シティポップの名曲「Stay with me ~真夜中のドア」をサンプリングした「Stay with me」をネットでバズらせている。ベトナム系アメリカ人のR&BシンガーTHUYのように、本格的なR&Bスタイルでオーディエンスを圧倒したアーティストや、EAJやAUDREY NUNAとDEB NEVERなどのロックサウンドにラップを乗せた、オルタナティブなアプローチも新鮮さを放っていた。


Rich Brian(Photo by AI.VISUALS)


EAJ(Photo by LINDSEYBLANE)

●フィナーレ

トリのジャクソン・ワンが9月9日リリースのニューアルバム『MAGIC MAN』をイメージしたセットで最高潮に盛り上げた後、2日間のフェスを締めくくるコラボレーションでのフィナーレへ。ジャクソンとタイ人ラッパーMilliによる「Mind Games」から、新しい学校のリーダーズが登場。フィナーレで単独でフィーチャーされ、彼女たちが88risingから期待されていることが伝わった。現在の音楽シーンでヒットに大きな影響を持つTikTokでの活躍は、どちらかと言えば、YouTube、Spotify、Instagramに強い印象がある88risingにとって新しい展開に思えた。TERIYAKI BOYZⓇとリッチ・ブライアンの共演での「TOKYO DRIFT」の熱狂的な盛り上がりから、フィナーレのラストを締めくくった「California」「Midsummer Madness」に代表されるメロウなラップとR&Bボーカルのリレーソングは、皆が「88risingらしい」と感じる音楽性だろう。出演アーティストと客席が音楽を通じて一体となり、最高に幸せな時間を作り出した。

このフィナーレでも目を引いたのは中国人アーティストのジャクソンだ。88risingの所属ではないが、ヘッドライナーとして全体に気を遣いながらフィナーレもしっかりまとめ上げていた姿は、アジア的な「座長」といった印象。ストイックに自らの表現やビジネスをコントロールし、K-POPと88risingの二つの大きな潮流を押さえながら、中国の大きなマーケットで結果を出しながら、アメリカでも存在感を増している。このジャクソンのニューアルバム、そして、11月リリースが発表された全米のスターとなったJojiのアルバムは今後に大きな影響を残すインパクトを与えそうだ。方や「大中国×K-POP」の王道スター、方や「露悪的YouTuber×天才的なサウンドアーティスト」。この陰と陽が、2022年後半の世界の音楽シーンに与えるインパクトに注目したい。


The Kinjaz(Photo by IVANMENESES

●SNS力とクリエイト力を武器にしたスマートな企業タイアップ

YouTubeの浸透と共に登場し、InstagramとSpotifyを攻略し、いわゆるZ世代を支持層に存在感を増してきた88risingは、他業種の大企業にとっても魅力的な存在だろう。ショーン・ミヤシロがかつて働いていたWEB媒体で身につけた手法の中にスポンサー企業とのタイアップも含まれていると思う。このフェスにおいても、GUESSやTOYOTAなどの企業はさりげなく、ブースやスクリーン展開していた。通信会社AT&Tも上手く転換中の演出に溶け込ませていたのも印象深い。フェス中継はAmazon傘下のTwichで行なわれた。

TERIYAKI BOYZⓇのメンバーでもあるVERBALとYOONのブランドAMBUSHは、コラボグッズを販売。Warren Hueをモデルにスクリーンにスタイリッシュな映像を放映し、ブースで展開と合わせて音楽×ファッションをクールに提示していた。LAで人気のアジア料理店ナイト・マーケットがキュレーションしたフードも美味で好評だった。経済的に途上国で、この円安状態である私たち日本人にとっては全てが高価に感じられたのは残念だった。

●ピースで優しいアジア的なフェス

アジア系の台頭を象徴する88risingのフェスとあって、全体の空気もアジア的な穏やかさ、ピースな雰囲気が居心地が良かった。LAにいながらにして暴力的な雰囲気を一切感じない。そして、中国系、韓国系、東南アジア系、多様なアジアが音楽を通じて同じ時間と空間を気持ちよく過ごすという体験は、今まで体験した記憶がない。今回客層は、ジャクソン・ワン効果なのか中華系が思った以上に多い印象があった。ジャクソンのような中国人のグローバル・スターが登場することで、市場がさらに拡大しアジア系音楽の存在感は益々増すのではないだろうか。政治的な問題も難しいなか、カルチャーを通じて好影響となることも期待したい。今回のフィナーレでのジャクソンの奮闘ぶりやショーン・ミヤシロ、ミッシェル・ヨーと並び立った姿を見るとポジティブな意味でのCHINAの「rising」を感じた。彼自身も繊細な問題への発言は控えているように感じるが、表現の奥から背負っているだろう大きな葛藤を感じることがある。それこそが、中国系の若者たちの支持を得る理由になっていると思う。

日本で、代々木公園のタイ・フェスティバルや台湾フェスティバルなどに参加することはあるが、異文化を楽しんでいた自分があり、そこに同じアジアの仲間という感覚は無かった。88risingもフェス参加者も、この心地よい時間と空間を自分の居場所と感じることを楽しんでいて、それがこのフェスに特別な一体感をもたらしていた。


Photo by ALIVECOVERAGE


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