スタークローラーが語るバンドの新時代「ロックはクールな音楽と見られるようになった」

スタークローラー(Photo by Cameron McCool)

 
2018年にラフトレードから『Starcrawler』でデビュー、ロスアンジェルス発のティーン・バンドとして注目を浴びたスタークローラー。ライアン・アダムスのプロデュースで、彼が所有するヴィンテージ機材もたっぷり使って録音した同作は、ステージでの爆発力をそのまま封じ込めたような生々しい仕上がりになっていた。同年夏のフジロックでボーカルのアロウ・デ・ワイルドが血糊まみれになって激演、日本でも一躍人気バンドの仲間入りを果たしている。

2019年の2ndアルバム『Devour You』では、パブリック・イメージ・リミテッドやキリング・ジョーク、ニック・ケイヴなどを手がけてきたベテランのプロデューサー、ニック・ローネイを起用。前作の延長線上にありながら、曲調のバリエーションは格段に増え、グラム・ロック、グランジ、カントリーの風味まで屈託なく取り入れていた。同作リリース後のジャパン・ツアーも盛況、安泰に見えたバンドに、やがて大きな変化が訪れる。

2020年にジャック・ホワイトのサード・マンからシングル「Lizzy」をリリースする直前、アロウと共にこのバンドを始めた張本人であるドラマーのオースティン・スミスが脱退を発表。バンドにはギタリストのヘンリー・キャッシュの実弟であるビル・キャッシュ(それまでギターテックとしてツアーに同行していたそう)が2人目のギター担当として加わっていたが、そこに新ドラマーのセス・キャロライナを迎えて5人編成に拡大。メジャー流通を持つナッシュヴィルのレーベル、ビッグ・マシーンと新たに契約を交わして、3rdアルバム『She Said』を完成させた。

デビュー時のインパクトが強烈だったバンドほど、2作目、3作目のアルバム作りは当然難しくなる。楽曲のクォリティが上がり始めた頃に、ファンが離れてしまうのもよくある話。しかしソングライティングに時間をかけ、じっくり制作に臨んだことが吉と出て、『She Said』は過去最高に佳曲揃いのアルバムとなった。勢い任せな面もあったアレンジが整理され、メロディの魅力が際立つ一方、ミッドテンポの曲では前作から萌芽していたルーツ志向も大きな武器のひとつに。以前は“成熟したスタークローラー”なんてなかなか想像できなかったが、それを見事にやってのけているのだ。

結成から7年目となるスタークローラーだが、メンバーは未だ20代前半の若いバンド。苦難の時期を乗り越えて完成した自信作について、アロウとヘンリーにたっぷり語ってもらった。



─まず、メンバーチェンジに驚きました。ドラマーのオースティンが脱退して今のメンバーに落ち着くまでは、どんな流れでしたか?

アロウ:ずっと前から、ビルにはバンドに入って欲しいと皆思っていたの。彼には既に練習に参加してもらっていたし、パンデミックが終わったあとくらいで、フルサウンドにしたくて。そしてその後、オースティンがバンドを抜けて、セスが入った。セスは、私たちがずっと前から知っている友人で、ドラマーだったから、彼がバンドに入るのはすごく自然なことだったんだよね。既に私たちのファミリーみたいな存在だったから。

─最近バンドがボートの上で演奏している映像を見たんですけど、新しく加入したビルは、ペダル・スティールもすごく上手なんですね。彼について教えてください。

ヘンリー:ビルは僕の弟で、14歳からギターテックとして僕らに同行してたんだよ。ビルは音楽の天才なんだよね。だから、彼をバンドに入れたいと思ったんだ。僕より既に上手かったし(笑)。



─ビルはそれまでどんな音楽を聴いてたんでしょう?

ヘンリー:多分、僕らが聴いていた音楽とほぼ同じだと思うな。彼もロックンロールが好きなんだ。ブラック・サバスとか、ラモーンズとか。結構幅広いよ。バック・オウエンス(カントリー・ミュージックのレジェンド)も好きだし。

─セスについても教えて下さい。

アロウ:彼は私のボーイフレンド(ギルバート・トレホ、俳優ダニー・トレホの息子)の親友で、バンドのみんなが初めて彼に会ったのは、ギルバートが監督した「Chicken Woman」のビデオのセットだった。最初は、砂漠の現場まで送ってもらったり、ただアシスタントとして参加してもらうつもりだったんだけどね。でも、拷問される役が必要になって、彼に出演してもらうことになった。檻の中で、裸で震えてるキャラクターがいたの覚えてるかな? あれがセス(笑)。まあそんな感じで、セスとは友達だったの。その時はドラマーは必要なかったけど、探さなきゃいけなくなって、セス以外は考えられなかったんだよね。家族みたいな存在だったから。

─5人編成になってからのバンドは、それまでとどんなところが変わりました?

アロウ:今でも変わらないとは思う。でもサウンドは確実にフルになったし、バンドとして新しい時代に突入したんじゃないかな。

─サウンドやバンドのあり方などに変化はありましたか?

ヘンリー:前回のアルバムの時点で、既に1曲の中により多くのパートが入ってきてたんだけど、それを全部自分一人で演奏してた。ギターのパートが3つあっても、ギタリストは一人しかいなかったからね。でもその時からずっと、その音をライブでフルに演奏したいと思ってたんだ。ツアーでベックやスプーン、ケイジ・ジ・エレファントと一緒になって、複数のギタリストがいる彼らのパフォーマンスを見ていると、一人よりもトーンの幅がかなり広がるなと思った。だから、僕らもそのレベルに自分たちのライブショーを進化させたくなったんだ。パンデミックが終わったら、自分たちにとってベストなショーをやりたいと思っていたし、そのために、フルサウンドでパフォーマンスをする準備がしたかった。で、セスと一緒にセッションを初めてみたら、これまで足を踏み入れたことがなかったサウンドに足を踏み入れた気がしたんだよね。だから、そこから毎日皆で演奏しまくった。今はスタジオもあるから、そこに入って毎日みっちり練習したんだ。

─これまで2枚アルバム作りを経験して、何が今後の課題だと思っていました?

アロウ:特にこれという特別なものはなかったけど、前回のアルバムに比べて自然に進化したアルバムを作りたいという気持ちはあった。もうワンステップ上にあがるというか。

ヘンリー:今まで、アルバム作りにここまで時間をかけることができなかったからね。でも今回は、自分たちがそのサウンドを好きか嫌いかをじっくりと考える時間があった。前作はツアーの合間に作ったから、音のことをじっくり考えるというよりも、期限までに作らなきゃって気持ちの方が強かったんだ。しかも、でき上がった音源をプロデューサーのニック・ローネイと電話しながら、バンの車内でミックスしていたんだよ。それって理想的なミックスの仕方とはかけ離れているよね(笑)。でも今回は時間があったから、最初の数カ月は、とにかく演奏をした。そしてその中で、ここはこうプレイした方がいいんじゃないかとか、サウンドについて色々と話し合うことができた。ミックスをする前に、そのサウンドをどうやってプレイするかをしっかりと把握することができたんだ。できたものを、振り返る時間があった。例えば「Broken Angels」は最初のデモがあったけど、レコーディングしてみたら、それがデモと同じヴァイブを持ってなくてさ。だから、デモと同じエナジーを作り出すためにはどうしたらいいのかを色々と考えて、レコーディングしなおしたんだ。



─ニュー・アルバムを聞いてみると、楽曲はさらに無駄がなくシンプルかつキャッチーに、しかしサウンドのデザインやアレンジはこれまでに以上に練られている気がしました。

アロウ:そうかもしれない。私たちのアルバムは、今回に限らず、どれも結構シンプルだとも思うけど、『Devour You』なんかは、もっとレイヤーがある曲もあるしね。でも、私たちはずっとシンプルでキャッチーな曲を書いてきたと思う。あと、今回アルバムをプロデュースしてくれたタイラー・ベイツは、映画やテレビ番組、ビデオゲームなんかのサウンドトラックを手がけているから、このアルバムは映画的なサウンドに仕上がっているとも思うな。

ヘンリー:タイラーは、ギタリストとしても素晴らしいんだ。彼は音色や曲が持つムードのことまで常に考えている。タイラーも僕も、機材オタクなんだよね。50種類くらいのアンプを試して、曲の雰囲気に合った完璧なサウンドを探した。一曲一曲、それぞれに異なる世界を持たせることも意識したんだ。

─特に何か一つの要素が飛び出すのではなく、バンドが一丸となってグルーヴを作るのがうまくなりましたね。ライブを重ねてきた影響もあるのかな?

アロウ:そうだね。あると思う。

ヘンリー:あとは、セスの影響もあるんじゃないかな。セスのグルーヴってすごくハードだから。セスは、根っからのジャズ・ドラマー。だから、彼はよくスイングするんだ。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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