追悼クーリオ 90年代を彩った「slippity-slide(しなやかに世間を渡る)」の美学

「Gangsta‘s Paradise」誕生秘話

もっとも有名なヒット曲といえば、1995年の「Gangsta‘s Paradise」だ。スティーヴィー・ワンダーの「楽園の彼方へ」にのせてゲットー生活の苦難をラップしたこの曲は、ちょうど46年前のクーリオの命日の前日にリリースされた。ミシェエル・ファイファーの映画『デンジャラス・マインド』のサントラからの1曲で、ゴスペルシンガーL.V.が力強いボーカルを添えている。「Gangsta’s Paradise」はビルボード・シングルチャートで1位に輝き、その年の最多セールス・シングルとなった。彼がこの曲を書いたのは、プロデューサーがスティーヴィー・ワンダーの曲を演奏するのを耳に挟んだのがきっかけだった。2015年にローリングストーン誌とのインタビューで語っているように、「腰を落ち着けて曲を書き始めていた時だった。ベースライン、コーラスライン、フックが聞こえてきて、パッとひらめいた。『死の谷の影を歩きながら/人生をあらためて振り返ると、そこには何も残っていなかった』――こんな風にフリースタイルでのせていった。天上から降りてきたのを書き留めたのさ」

彼はその場でまるまる1曲を作り上げた。「俺は神様からの力添えだったと信じたいね」と、彼はローリングストーン誌に語った。「『Gangsta’s Paradise』がこの世に生まれたがっていたんだ。息を吹き込んでもらおうと、俺を媒介に選んだんだ」(この曲はのちにアル・ヤンコビック90年代最大のヒット曲「Amish Paradise」となった)。ライム部分の卑猥な文言にスティーヴィー・ワンダーが難色をを示すと、クーリオはオリジナルからそれらを削除した。ビルボード・ミュージック・アワード授賞式では、クーリオとL.V.にワンダーもステージに加わって、聖歌隊を交えながら両方のバージョンを見事に披露した。



アルバム『Gangsta’s Paradise』からは数々のヒット曲が生まれた。クール&ザ・ギャングのディスコビートに乗せて、TLCの「Waterfalls」のように安全なセックスを呼びかける「Too Hot」(「最初は計画したつもりでも、結局は筋書き通り」)。ダンスフロアへと誘う「1,2,3,4(Sumpin’ New)」――信じられないかもしれないが、当時この曲をリリースすることは、「Gangsta’s Paradise」以上に商業的に危険を伴っていた。微妙なバランスが要求されたが、クーリオは上手くやってのけた――ラップの評判を傷つけ得ることなく、軽快なパーティ・ポップジャムもこなし、「Kinda High Kinda Drunk」といった曲の直後に黒人女性への讃歌を並べてみせた(「For My Sistas」)。アルバムの最後は「The Revolution」と「Get Up, Get Down」の1・2パンチでシメ。クーリオほど様々な心境を難なく組み合わせることができるアーティストはそうそういない。『サブリナ』のような子どもTVドラマに出演したかと思えば、ニコロデオンのコメディ番組『キーナン&ケル』に主題歌「Aw Here It Goes」も提供した。

Translated by Akiko Kato

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