追悼クーリオ 90年代を彩った「slippity-slide(しなやかに世間を渡る)」の美学

「金を稼げ。稼げるうちにね」

クーリオはヒット曲を送り出し続け、1997年にはパッヘルベルのカノンのループにのせて、亡くなった同郷の仲間を偲んでラップした「C U When U Get There」をリリースした。またカントリーの伝説的存在ケニー・ロジャースとタッグを組んで、現代版「ザ・ギャンブラー」とも言うべき「The Hustler」をデュエット。この曲はいかにも2001年らしいタイトルのアルバム『Coolio.Com』に収録され、ミュージックビデオでも共演した。2006年に『The Return of the Gangsta』で活動を再開した際には、「Gangsta Walk」でスヌープ・ドッグとも共演した。

クーリオは90年代をテーマにした番組やフェスティバルでも常に主役を張り、ライブの腕が落ちていないことを証明した。2017年の「I Love the Nineties」ツアーで、コネチカット州ブリッジポートのアリーナの楽屋で彼と話をする機会があった。期待にたがわず、クーリオはこれ以上ないほど気さくな男だった。彼はちょうど宝石を埋め込んだお気に入りのカスタムマイクの修理に忙しくしていた。「ライトセーバーならぬマイクセーバーさ」と説明してくれた。彼はまた細部にとことんこだわる男だった。「スヌープなんか、自前のマイクに6000ドルも払ってるんだぜ」。だが彼はローディー任せにはしない。電動ドリルとハンマー片手に自分で修理にいそしんでいた。「知らなかった? 俺は黒人マグガイバーなんだ」

クーリオはラップシーンについて、長い年月での変わりようについてあれこれ語った。だが他の同世代のラッパーとは違い、新世代のスターについて苦々しい思いは少しも抱いていなかった。「昔はクラックの時代だった」と彼は言った。「今はポスト・クラック時代――メタンフェミンの時代だ。マンブルラップの連中は、クラック時代の親から生まれた。多少常軌を逸しておかしなことをしたとしても、あいつらのせいじゃない。あいつらはバカもたくさんやるが、才能の煌めきもある」。彼らにアドバイスするとしたら? 「金を稼げ。稼げるうちにね」

マイクを修理し終わると、彼はエクスカリバーのように誇らしく掲げた。「マイクカリバーだ」と言ってマイクを振り回し、ロックスターのような仰々しいポーズをとった。サックス奏者のJarezが言う。「俺たちは彼を黒人ヴァン・ヘイレンって呼んでる。いわば、ゲットーのピーター・パンさ」

「バング・ヘイレンって呼んでくれよ」とクーリオ。「ギャング・バング・ヘイレンだ」 バング・ヘイレンよ、安らかに眠り給え。さらばクーリオ――偉大なるアーティスト。Slide-slide-slippity-slideよ、永遠なれ。

From Rolling Stone US


Translated by Akiko Kato

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