WONK×宮川貴光 ありのままに語るドキュメンタリーと「原点回帰」の裏側

「アート」と「ビジネス」のバランス感覚

―今回のドキュメンタリーの制作を通じて、宮川監督はどんなことが特に印象に残りましたか?

宮川:幹さんと「WONKのバランス感覚」みたいな話をしてるシーンがあるじゃないですか? マーケットを意識して売れるものを作ることと、自分たちのやりたい表現をやること。その「どっちにも振れる」みたいな両輪って、どのクリエイターもみんな目指してることだと思うけど、どうしてもどっちかに偏ってしまう。でもバンドだったら、メンバーでそこを上手く補え合えたりもするんだなと思って、ちょっと羨ましかった。ただ、今はどのジャンルもマーケットを維持しようとする保守的な態度が主流になっていて、それが新しい表現を生むフィールドを極端に狭めてしまってる。特に音楽は他の表現よりも先行してそうなっていったように思います。そういう状況に対して、同世代の音楽家がで同じような問題意識を持ってるんだなっていうのはすごく印象的でした。なおかつ、僕と比べるとWONKの方がマーケットに軸足があって、僕はそことは違うところに軸足があるけど、彼らとはマーケット優先的でないことみたいな感覚を共有することができた。だからこそ影響を受け合うことができたのだと思います。

荒田:今の話で言うと、『artless』は制作期間という意味ではマーケットの影響をすごく受けていて、それはマジで嫌だなと思ってたんです。「ここまでには絶対間に合わせないといけない。なぜならリーチがどうだから」みたいな、ビジネス的な視点で締め切りが決まってる中での制作だったんですよ。結果的にはめっちゃ納得のいく作品ができたんですけど、作ってるときのメンタルとしては、もうこういうことはやりたくないと思いました。

江﨑:今回そうやって締め切りを決めざるを得なかったのは、自分たちで会社をやっているので、会社の資金が今どういう状態なのかが自分たちで分かって、このタイミングでアルバムを出さなきゃいけないっていうのがわかってたからで。EPISTROPHとしてこうやって映画を作ったり、最近バーを開いたり、自分たちが作りたいものを自分たちのペースで作るためには、もっといろんなことをやっていかないとなとは思っていて。

荒田:難しいですよね……もちろん、作品自体をマーケット的な視点で考えて、「こういうメロディーが売れる」とか「こういう音色が流行ってる」とやっていったらクソつまんなくなるから、それはやりたくない。一番最初に『Sphere』を作ったときは本当にただただ作りたいものを作ってたんです。でも活動の規模が大きくなっていく中で、どうしてもビジネス的な視点も入ってきて……ただ、もうすぐ30代になるので、ビジネス的な視点を入れずに制作ができる環境をいかに作るかっていうのが、これからの目標ですね。




合宿中の一コマ(Photo by Ayatake Ezaki)

―もともとバンド活動の早い時期に自分たちの会社を作ったというのは、音楽そのものを第一に考えた上で、ビジネス的な側面も自分たちでコントロールをするためだったわけですよね。その後メジャーのレコード会社とも仕事をするようになり、その中でいろいろな難しさもあった。『artless』は音楽性の部分で原点回帰的な側面のある作品でしたけど、活動の仕方という意味でも、ある種原点回帰するタイミングだったのかもしれないですね。

井上:「両輪」っていう考え方は自分たちには結構難しいなと思って。僕らはもともとポピュラーミュージックが好きなので、自分たちが作りたいものを作るってことと、大衆に受け入れられるものを作るっていうことを、離して考えることはできないというか。もちろん、最初から大衆受けのためのもの作りをするつもりはないですけど、自分たちが好きなポピュラーミュージックを好きな仲間に「いいね」って言われたら嬉しい。なので、マーケットに軸を置くか、そうじゃないかっていう分け方ではないと思うんです。




合宿中の一コマ(Photo by Hikaru Arata)

―それこそ最近のRolling Stone Japanで語ってもらったロバート・グラスパーにしろザ・ルーツにしろ、その両方を成し遂げてきた人たちですもんね。

井上:なので、音楽性については変に考えなくていいと思うけど、お金のことはやっぱり考えなくちゃいけなくて、だから今回も締め切りを設定しなくちゃいけなかったわけだし、そこは難しいですよね。自分たちの音楽を守るために自分たちで会社をやってるからこそ、お金がなくなったら無理もしなくちゃいけないし、そういうジレンマはあります。ただ何にしろ、やっぱり大事なのは自分たちのやりたい音楽をやるっていうことだから、そこで起きたお金の問題も自分たちで何とかするしかない。さっき文武が言ってたように、音楽以外の部分で余裕を作って、音楽は音楽で作りたいものを作るっていう、そこが今見えてるひとつの正解ではあるのかもしれない。

江﨑:WONK結成当初で言うと、もっと海外のリスナーを獲っていくことをメインに考えてたんですよね。ストリーミングの時代になって、メガヒットを出さなくても、いろんな国で聴かれることによって生きていけるから、そこを目指そうっていう。でも、どうやらそれはそんなにたやすいことではないと。しかも、日本でストリーミングのカルチャーが広がると、アルゴリズム的にガラパゴス化して行くというか、関連アーティストに日本人しか出てこなくなったり、そういう難しさがすごくあって。それで結局「国内で物事を考えなくちゃいけないじゃん」みたいな状況になったりもして。

荒田:コロナで海外に行けなくなっちゃったのも辛いよね。逆に言えば、そこがこれからやっていくべきことのひとつというか、結局行かないと話にならないと僕は思ってて。プレイリスト施策とかもあると思うんですけど、正直一過性でしかないと思う。結局現地で関係性を作っていかないと、表層で終わっちゃうと思うから、やっぱり実際に行くっていうことが強いと思うんですよね。

江﨑:The fin.とかSTUTSくんとかLucky Tapesとかは最近東南アジアのフェスに出てたりして、彼らから学ぶところもすごくあると思っていて。もう海外はコロナ明けしてるから、これからはバシバシ行けたらなって。

井上:それこそ原点に立ち返るというかね。日本だけじゃなくて、世界のいろんな国にちょっとずつでもファンを作っていく。そこをもう一度実践していきたいですね。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE