ルイス・コールが明かす、超人ミュージシャンが「理想のサウンド」を生み出すための闘い

 
ファンク、メシュガー、ハーモニー

―「I’m Tight」は100曲くらい録音したファンクを継ぎ接ぎして作ったそうですが、その制作プロセスを聞かせてもらえますか?

ルイス:あの曲に関しては、一つのシンプルなビートの上に、できるだけたくさんセル(訳注:これ以上割ることのできない音楽の最小構成単位)を乗せていこうと思った。ファンクの小さい世界とも言える16小節のセルを、結果的に100近く作ったんだ。実際に使ったのはそれよりも少ないんだけど、とにかく大量に作って、それをキルト地のように繋ぎ合わせた。自分がしっくりくる形でね。

―この曲は、ドラムのリズムパターンはシンプルだし曲中でそんなに変化していないですよね。その一方で、ベースやシンセのフレーズは滑らかにずっと変わり続けている。

ルイス:同じドラム・ビートの上で、ベース、キーボード、ギターのパートが、小さなファンクのセル状で変化していく、そんな曲が作りたかった。こだわったポイントとしては、単なるパッチワークで終わるんじゃなくて、ちゃんと曲だと思える流れを作ることだったね。

―その小さいセルには、かなり多様なファンクのスタイルがあったと思いますが、そのインスピレーションとなったのは?

ルイス:僕がやったみたいに、相性のいい小さなパートをいくつも作る達人といったらジェイムス・ブラウンだ。彼自身がほとんどを書いたんだけど思うけど、彼と彼のバンドは、基本的なギターとドラムのパートが永遠に続く感じで、シンプルなんだけど相性が抜群だった。この手の音楽に関して一番影響を受けたのはジェイムス・ブラウンだね。



―曲の途中でハードコアっぽいボイスやサウンドを用いた「Let Me Shack」は、あなたの作品では珍しいタイプの曲だと思いました。

ルイス:僕はアグレッシブなエレクトロニック・ミュージックが好きなんだ。サウンド・エフェクトを多様した曲作りとかね。スクリレックスのサウンド・エフェクトを上手く使った曲作りや、やりすぎなくらいコテコテなグルーヴが好きで、以前からそういう音楽も作っていたんだけど、なかなか発表する機会がなかった。でも、この曲は面白いから新作に入れることにしたんだ。



―ハードコアやメタルからも影響を受けたことはありますか?

ルイス:メシュガーが大好きだね。彼らにハマったのはここ1、2年なんだけど凄く好き。若い時に一番聞いたメタル・バンドはナパーム・デスで、しょっちゅう聴いてた。コンセプトに力強さを感じたからね。

―メシュガーのどんなところに惹かれますか? 

ルイス:激しいグルーヴ感だね。彼らの演奏もそうだし、曲作りに変拍子を取り入れたりしていて数学的で、複雑だけどグルーヴ感が半端ない。聞き手として細かいところはわからないけど、テンポ感がひたすら気持ちいいんだ。



―メシュガーの音楽がインスピレーションになった曲はありますか? 個人的にはそれこそ「Let Me Shack」あたりかなと思ったんですが。

ルイス:「Let Me Shack」の最後の激しい音とかは近いかもしれないね。あと、「Bitches」(サム・ゲンデルが参加)なんかはメシュガーっぽい感じがほんの少しあるかもしれない。リフ主体の演奏とか、一つのパートをギターとベースがユニゾンで弾く感じとかね。ただ、直接的な影響を受けているというよりは、品質のレベルにおいて参考にしているという意味合いのほうが強いかもしれない。メシュガーを聴くと、「自分ももっと頑張らないと」って思わされるから。



―メシュガーは複雑なリズムでも知られていますが、あなた自身はソングライターとして、もしくはドラマーとして、複雑なリズムを表現することにどれくらい関心がありますか?

ルイス:僕はそこまで複雑であることにこだわりはない。音楽的にいい感じだと思えるならアリだけど、ただ複雑というだけでは、あまり脳を刺激されないんだ。ある特定の感情を伝えるうえで、複雑なリズムを取り入れるのが唯一の方法だと思えばそうするけどね。

―では、あなたが作曲するうえで歌詞、メロディ、コード、アレンジのどの部分に一番やりがいや自分らしさを感じますか。

ルイス:どれも好き。そうやって切り分けて考えた場合、その一つ一つが自分のスピリットの違う面だったり、気持ちや感情を表現するいろいろな方法を与えてくれる。

そのなかでも、自分を特別な世界に引き込んでくれるのはハーモニーだ。特定のコード進行や単体のコード、あるいはハーモニーでもいいんだけど、それでしか伝えられない入り組んだ深い感情があると思っている。真っ直ぐでわかりやすいものじゃない、もやもやした感情。強く感じるのに、それがどんな感情か自分でもわからない。そういう感情を表現するのが好きなんだ。複雑にいろいろ入り組んでいて、細かいニュアンスやディテールが詰まっている表現をね。



―あなたが書く複雑なハーモニーは、他のミュージシャンにとって分析対象になっているでしょうし、みんなが自分なりに再解釈したくなる要素だと思います。

ルイス:自分の音楽が分析対象になるのはクールだね。僕は自分でも何をやってるのかわかってないところがある。他の人がそれを解き明かしてくれるのは嬉しいことだよ。

―多くのジャズ・スタンダードには親しみやすさと共に、チャレンジしたくなるテクニックや自由に解釈できるような仕掛けが入っています。あなたが作る曲もポップでありながら、演奏したくなるような要素が詰まっていますよね。そういった要素は狙って入れているのでしょうか?

ルイス:その辺はあまり意識していないかな。僕としては、自分が好きな音楽を追求している。例えば、印象的で口ずさみやすいメロディも好きで、そういう地に足のついたものと、激しい演奏などのぶっ飛んだ要素を組み合わせるのが好きなんだ。個人的に聴きたくなるような音楽を、自分で作ってみようという発想が大きいんじゃないかな。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE