ローリングストーン誌が選ぶ、2022年の年間ベスト・ムービー22選

15位『The Fabelmans(原題)』
2023年日本公開決定、公開日は未定。


MERIE WEISMILLER WALLACE/UNIVERSAL PICTURES



スティーヴン・スピルバーグ監督は、本作によってようやく自らのバージョンの『ROMA/ローマ』(2018)ともいうべき作品を私たちに届けてくれた。スピルバーグ監督と脚本家のトニー・クシュナーは、1950〜60年代のアメリカを舞台に、豊かな感受性に恵まれた少年が映画の力によって度重なる引っ越しや家族の不和、ユダヤ人差別によるいじめを乗り越えて成長していく姿を描いた。スピルバーグ監督は、以前から自身の困難な生い立ちについて語ってきたが、幼少期の苦悩や歓びがこうして再現されるのを(ようやく監督は、共感と許しの感情とともにそれにふさわしい機会を得た)目の当たりにするのは、アメリカの映画史に名を残す巨匠の心の内を知ることでもある。本作がどんな映画か知りたい人は、『アメリカン・グラフィティ』(1973)に劇作家ユージン・オニールの戯曲とプライマル・スクリーム(訳注:幼少期のトラウマに対処させることで神経症を解消させる療法)療法を足して、それを二で割ったものをイメージしてほしい。息子の夢を応援する母親というコンセプトを再解釈したミシェル・ウィリアムズの演技も素晴らしい。それに加えて、豪華なキャストやただただ美しい視覚要素などの見どころも満載だ。

14位『Saint Omer(原題)』
日本公開未定


SRAB FILMS



アリス・ディオップ監督の『Saint Omer(原題)』は、渡仏した若いセネガル人の母親が生後15カ月の娘を海岸に置き去りするという実在の事件とその裁判に材を取っている。ドキュメンタリー映画を得意とするディオップ監督(同じく2022年の作品である『We(英題、原題:Nous)』も秀逸)は、実際の裁判記録を紐解きながら、長回しのカメラワークを駆使して証人たちが証言台に立つシーンを再現している。物語は、小説家のラマ(カイジ・カガメ)の視点から展開される。実話という素材をもとに、自身初となる長編のフィクション作品に挑んだディオップ監督は、真実と正義の概念と法廷ドラマの高揚感を巧みに融合させ、現代の社会規範が本当は誰のためにあるのかを浮き彫りにした。素晴らしい作品だ。

13位『コンペティション
2023年3月17日公開予定


MANOLO PAVON/IFC FILM



強烈なソバージュヘアのペネロペ・クルスがエンターテインメント業界を風刺化したブラックコメディを名画へと昇華させた。南米アルゼンチン出身のマリアノ・コーン監督とガストン・ドゥプラット監督が仕掛けるのは、アートとビジネスのバトル。赤コーナーは尊大なベテラン舞台俳優のイワン(オスカー・マルティネス)。青コーナーは気の抜けたハリウッドスターのフェリックス(アントニオ・バンデラス)。ベストセラー小説を映画化するという大富豪のビジネスマンの野心的なプロジェクトの采配は、人気映画監督のローラ(ペネロペ・クルス)にかかっている。だが、奇想天外すぎる演出論を貫こうとするローラとふたりの俳優たちは激しくぶつかり合い……。本作は、独創性に必要なのはインスピレーションでもなければ、金でもなく、完全なるカオスであることを教えてくれる。その点において、クルス扮する変人監督(実在のモデルがいるのかもしれないし、いないのかもしれない)は圧倒的な手腕を見せつける。そのコミカルな演技は、文句なしにクルスのキャリアにおける最高傑作のひとつと言えるだろう。「アクション」と「カット」と叫びながら、外科手術のような思い切りの良さでナルシスト俳優たちのエゴを崩壊させずとも、本作はあらゆる笑いのツボを押さえているが、芸術家の“天才性”を表現したクルスの演技そのものが天才と呼ぶにふさわしい。

12位『RRR アールアールアール
一部地域にて公開中


DVV ENTERTAINMENT



筋骨たくましい上半身裸の男が、猛り狂うオオカミとトラと空中戦を繰り広げる。捕らわれた少女を救出するという使命に加えて、沈むいかだ舟や炎に包まれる列車、馬、バイク、縄、そしてインド国旗……。高度な振り付けによって仕上げられた圧巻のダンスバトルが繰り広げられる一方で、本作は階級社会に中指を突き立てる。男性同士の友情を描いたモンタージュやスローモーションで映し出されるダークなシーン、フラッシュバック、槍を使った森の中のバトル、親友に体を支えられながら兵士の群れに立ち向かうアクションシーンなど、S・S・ラージャマウリ監督が贈るこのトリーウッド超大作(本作を単なる“超大作”と呼ぶのは不自然な気もするが)には、これら以外の要素もふんだんに盛り込まれている。イギリス政府の警察官ラーマ(ラーム・チャラン)と村の革命家ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)の熱い友情を描いた本作(タイトルの『RRR』はRise[蜂起]、Roar、[咆哮]、Revolt[反乱]を略したもの)は、3時間強の上映時間とともに100年分の超大作物を堪能したような充実感を味わわせてくれる。

11位『TÁR(原題)』
2023年5月、日本公開予定


FOCUS FEATURES



突然だが、ここで問題だ。ドイツのオーケストラで女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ターの転落を描いたトッド・フィールド監督の問題作『TÁR(原題)』では、主人公のリディアはいったいどのように描写されているのだろうか? A)黒幕 B)怪物 C)芸術家のあるべき姿(およびそれにふさわしい立ち振る舞い)を装った、コンパートメント化された作り物。答えは、「全部」だ。エレガントで無駄がないことに加えて、多くの場面において容赦ない人物描写を繰り広げる本作は、SNS上などで著名人を糾弾する「キャンセルカルチャー」を浮き彫にすることよりも、豊かな独創性に恵まれた天才たちの乱用が正当化され、公然と行われていることに焦点を置いている。それだけでなく、本作は監督と脚本を手がけたトッド・フィールドと何十年に一度の天才と称されるケイト・ブランシェットの夢のタッグが実現した作品でもある。ブランシェットは、本作によって現代でもっとも偉大な俳優のひとりとしての地位を固めたと言っていいだろう。

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