ローリングストーン誌が選ぶ、2022年の年間ベスト・ムービー22選

10位『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦
Disney+にて視聴可能。


NEON



カップルの中には、共通の趣味を持つ者もいる。フランス人科学者のカティアとモーリス・クラフトにとってそれは火山だった。ふたりは出会った瞬間から互いに夢中になり、ともに世界を旅した——火山に対する興味というよりは、並外れた執着に突き動かされて。クラフト夫妻が遺した活火山の噴火や噴火口からほとばしるマグマの記録映像とともにセーラ・ドーサ監督が放つのは、灼熱の溶岩を原動力とする——それは火山の研究と互いに向けられた——史上最大のラブストーリーである。この世のものとは思えないくらい見事で、構成に一切無駄のない本作は、不気味なまでに美しい。ミランダ・ジュライの淡々としたナレーションによっても、その魔法が解けることはない。たとえ結末がわかっていたとしても、ふたつの熱い心と頭脳の比類なき遺言であることに変わりはない。

9位『アテナ
Netflixにて視聴可能。

KOURTRJAMEUF KOURTRAJME



フランスのロマン・ガヴラス監督の『アテナ』は、市民と警察の武力衝突に巻き込まれていく3人兄弟を描いた悲劇である。舞台はアテナというパリ郊外の架空の団地。戦場と化した警察管区を映した12分弱の冒頭のシーンとともに、本作は視聴者の心を揺さぶり、心拍数を上げ、争いの渦中に引きずり込む。警察に反感を抱く若者たちに占拠されたアテナ団地を圧倒的な臨場感とともに描き出した監督の手腕は、ただただ見事だ。本作をパリの住宅地が舞台の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)になぞらえた筆者の同僚の言葉にも納得。その一方で、社会問題への視点とギリシャ悲劇のインスピレーションをもとにこうしたスペクタクル要素をコントロールするガヴラス監督の手腕によって、高度に作り込まれた“響きと怒り”以上のものに仕上がっている。本作は対立を描いているのではなく、この映画自体が対立なのだ。

8位『イニシェリン島の精霊
2023年1月27日(金)日本公開。


SEARCHLIGHT PICTURES




マーティン・マクドナー監督は、ほろ苦くもコミカルな『イニシェリン島の精霊』でアイルランドのルーツに立ち帰った。舞台はアイルランドの孤島、イニシェリン島。ある日、中年のバイオリン弾きのコルム(ブレンダン・グリーソン)は、少し間の抜けたところのある飲み仲間で親友のパードリック(コリン・ファレル)に絶交を申し渡す。理由は、残りの人生を作曲に捧げたいから。残念ながら、パードリックは納得してくれない。マクドナー監督の作品をよく知っている人であれば、塩気を帯びた辛辣なジョークやショッキングな暴力が待ち受けていることを予想できるはず。実際、本作においてもこうした要素は健在だ。ふたりが繰り広げるユーモラスなやり取りと、マクドナー監督(本作の脚本も執筆)の初期の戯曲を思わせるような血だらけの自傷行為からは、人間らしさが感じられる。それに加えて、グリーソンとファレルという『ヒットマンズ・レクイエム』(2008)の主演コンビの復活によって、ふたりの会話に命が吹き込まれている。ファレルの名演を称えるキャッチコピーはすべて本当だ。本作においてファレルは、ギリギリまで追い詰められる、少し鈍感で心優しい男を見事に演じているのだから。

7位『Aftersun(原題)』
日本公開未定。


A24



離婚した若い父親(ポール・メスカル)と11歳の娘ソフィー(フランキー・コリオ)がトルコのリゾート地で過ごした休暇を描いた『Aftersun(原題)』。プールサイドでのんびりしたり、時おり観光に出かけたりするふたりは、表面上は“絵に描いたような完璧な親子”に見える。だが、ふたりの物語のそこここにほころびがある。すべてがぼんやりとしていて、明確なことは何もわからないのは、本作が長編デビュー作となったソフィー・ウェルズ(監督・脚本)の手腕に依るところが大きい。徐々にオーディエンスは、本作が大人になったソフィー(セリア・ロールソン・ホール)の視点から語られる回想録であることに気づく——そこには懐かしのビデオカメラで撮影された映像とともに、胸を刺すような痛みが挿入されている。実際、本作は時限爆弾のようなものであり、それが爆発した時に絶大な効果を発揮する。

6位『Benediction(原題)』
日本公開未定


LAURENCE CENDROWICZ/ROADSIDE ATTRACTIONS



40年以上にわたって素晴らしい映画をつくり続けてきたイギリスのベテラン監督テレンス・デイヴィスのキャリアを見渡してみても、第一次世界大戦でトラウマを負って良心的兵役拒否者となった詩人ジークフリード・サスーンの半生を描いた『Benediction(原題)』は、特異な存在感を放つ。本作において、歴史ドラマと文学的回想、クィアな欲望、静かな情熱、そして若い男性たちの命を奪った戦争に対する燃え盛る怒りがひとつに溶け合う。俳優たちは、トップレベルの演技を披露している(そのなかでも、若き日のサスーンを演じたジャック・ロウデンと老年のサスーンを演じたピーター・カパルディ、親身な医師を演じたベン・ダニエルズの演技は傑出している)。悲劇の予感が作品全体に重くのしかかる一方で、鋭いウィットも光る。オスカー・ワイルドが『The Guns of August』(訳注:第一次世界大戦を描いたバーバラ・タックマンの小説)を書き直したら、このような作品になるのではないだろうか。ハリケーンのように突如として襲ってくる最後のシーン——一生分のメランコリーとトラウマが詰め込まれている——に、きっとあなたは圧倒されるだろう。

5位『No Bears(英題、原題:Khers Nist)』


JP PRODUCTIONS



イランの司法当局から反体制的とみなされて収監されているジャファル・パナヒ監督——現在は「反体制的なプロパガンダによって国家の安全を脅かした罪」により、禁錮6年の実刑判決に服している——が置かれている立場は、残念なことに最新作『No Bears(原題)』の緊張感とリアルさをより一層引き立てている。こうした状況にもかかわらず、またしてもパナヒ監督は人生を肯定すると同時に政治権力の顔面にパンチを喰らわせるような傑作を生み出した。主人公は、母国イランにおいて「20年間の映画製作の禁止」を言い渡された架空の映画監督の男(モデルはもちろんパナヒ監督本人)。男はトルコとの国境付近の辺境の村を拠点に、ノートパソコンを使ったリモート撮影に挑む。その一方で村人たちは、この有名な監督が撮影した映像の中に自分たちにとって都合の悪いものが映っているのでは、と心配しはじめる。映像を見せろと詰め寄る村人たちを前に、男は一歩も譲ろうとしない。やがて訪れるアイロニーと悲劇とともに、本作はパナヒ監督の身に現実に起こったことをリアルに描き出している。

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